健保連海外医療保障_No.132_2023年9月
33/79

諸外国における予防接種について健保連海外医療保障 No.13230限の拡大は急速に進められている。2022年1月には、保健担当省からの付託を受けたHASが「予防接種の領域における看護師、薬剤師および助産師の権限の拡大」24)と題された推奨を発出した。これを受けて制定された2022年4月21日の6つの法令(看護師、薬剤師および助産師の予防接種権限の拡大に関する2つのデクレ(首相が定める政令)と4つのアレテ(保健担当大臣等が定める省令))によって、薬剤師と看護師によるワクチン投与の権限の拡大、および助産師によるワクチンの処方および投与の権限の拡大が行われた。つづいて、2022年12月に制定された2023年社会保障財政法25)の33条により、一定の条件のもとで薬剤師、看護師がワクチンを処方し、投与することが認められることとなった。また、助産師がワクチンを投与することができる対象者の範囲が拡大された。かかりつけ医による担当患者への予防接種の促しは、報酬面からも支援されている。2011年に医療保険者と医師組合との間で締結された医療協約によって「公衆衛生の目標に応じた報酬支払い(rémunération sur objectifs de santé publique:ROSP)」が導入された。これは、定められた目標を達成した医師に対して成果報酬を支払う仕組みである。ROSPの指標は医師の専門領域に応じて設定されているが、ここでは予防接種にかかわるものとして、かかりつけ医を対象としたROSPに注目する。「成人」を対象としたかかりつけ医のROSPには29の指標が設けられており、そのうち二つの指標が予防接種に関連するものである。一つは「季節性インフルエンザの予防接種を受けた65歳以上の患者の割合」という指標である。毎年、多くの高齢者がインフルエンザによって深刻な状況に至ることから、これを回避するために接種率の向上が目指されている。到達目標は接種率61%とされており、かかりつけ医には達成度合いに応じた報酬が支払われる。二つ目は「長期疾病あるいは慢性呼吸器疾患を患っている16歳から64歳の患者のうちインフルエンザの予防接種を受けた者の割合」である。到達目標は42%と設定されている。かかりつけ医には高齢者の場合と同様に対象患者に対して予防接種を促すことが期待されており、目標の達成度に応じて報酬が支払われる。つづいて「子ども」を対象としたかかりつけ医のROSPには10の指標が設けられており、このうちの二つの指標が予防接種に関連するものである。これらの指標は、2016年医療システム現代化法によって、16歳未満の年少者もかかりつけ医の登録を行うこととなったことを受けて、2017年1月に導入されたものである。一つ目の指標は「麻疹・おたふくかぜ・風疹ワクチンを2回接種した2歳未満の患者の割合」である。これは、接種率が不十分であったことによって過去に麻疹の再流行を招いたことをふまえ、接種率のさらなる向上のために設けられた指標であり、達成目標は100%とされている。なお、かかりつけ医の担当する児童が県の母子保護センターで当該ワクチンを受ける場合もあるが、それによってかかりつけ医に不利益が生じないよう、母子保護センターで接種をした児童も含めて目標の達成度が計算される仕組みとなっている26)。二つ目は「髄膜炎菌感染症(C群)ワクチンを1回接種した18か月未満の児童の割合」である。一つ目の指標と同様に達成目標は100%であり、達成度合いに応じて報酬が支払われる。このように、かかりつけ医には自らが受け持つ高齢者や児童に予防接種を促す役割が強く期待されている。しかしながら、高齢者に対するインフルエンザの予防接種に関しては、ROSPが導入された2011年との比較において2016年の目標達成率が下がるという状況がみられた(Cour des comptes 2018:226-227)。かかりつけ医による予防接種の促進には、制度的な工夫や改善の余地が残されているといえる。(3)成果報酬による予防接種の促進

元のページ  ../index.html#33

このブックを見る