健保連海外医療保障_No.132_2023年9月
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29健保連海外医療保障 No.132高等保健機構(HAS)によって推奨と位置づけられたワクチンは、ほとんどのケースにおいて医療保険の償還対象となる。推奨とされなかったワクチンは医療保険からの償還の対象とはならないが、当該ワクチンの販売許可の際に定められた指示に従って、医師は自由に個別に提案することができる18)。医療保険の給付対象となるワクチンの償還率は、他の医薬品の場合と同様に、HASの透明性委員会の意見をふまえて決定される。現在、大部分のワクチンの償還率は65%である19)。また、いくつかのワクチンは医療保険からの償還率100%(自己負担なし)で接種することができる20)。そのようなワクチンの一つ目は、生後12か月から17歳までの児童と国家医療扶助(aide médicale de lʼEtat)の受給者を対象とした麻疹・おたふくかぜ・風疹の混合ワクチンである。これは、近年、再流行がみられる麻疹の感染予防の強化策として実施されている。二つ目は新型コロナウイルス感染症の予防ワクチンである。三つ目は、季節性インフルエンザの予防ワクチンであり、65歳以上の者や長期疾病の患者が対象となっている。なお、これらの対象者以外の者への季節性インフルエンザワクチンの接種は医療保険の給付対象外である。ワクチンの投与(注射)も通常の医療保険の給付と同様に償還対象である21)。医師あるいは助産師が診察の際に予防接種を行った場合の償還率は70%、季節性インフルエンザの接種対象者に薬剤師が予防接種を行った場合は同70%、医師の処方により看護師が予防接種を行った場合は同60%である。予防接種政策の強化による医療保険への財政的な影響はそれほど大きくないと見られる。医療保険によって負担されたワクチン費用(診察と注射は含まない)は、2016年で3.1億ユーロであり、これは薬剤支出の約1%相当である(Cour des comptes 2018:224)。また、2018年からワクチンの接種義務が拡大されたが、これによる追加的な費用は2018年で推計1,200万ユーロであった(Cour des comptes 2018:223)。少なくとも新型コロナウイルス感染症のパンデミックが発生する前までは、予防接種の拡大による医療保険財政への影響は限定的であったとみられる。予防接種の多くは通常の医療提供のなかで行われるため、予防接種を促進するためには外来部門の医療専門職の役割が重要である。被保険者が医療保険の給付として予防接種を受ける場合は、通常、開業医の処方を得て薬局でワクチンを入手し、必要に応じて保管し、再び予防接種のために受診するという流れになる。しかしながら、開業医と薬局を行き来しなければならない予防接種の経路は接種率の向上を妨げている背景の一つともなっており、改善の必要性が指摘されてきた。このため、ワクチンの処方や投与を医師以外の医療専門職にも広げる方向が模索されてきた。このような課題認識のもとで、保健担当省によって2012年に策定された「ワクチン政策改善のための国家計画(2012-2017年)」では、アクション4「外来医療におけるワクチンの経路を簡略化する」という項目が設けられた(Ministère des Affaires Sociales et de la Santé 2012:9)。状況を改善するためには、ワクチンの義務的な処方の考え方、薬剤師の役割、かかりつけ医の役割と診察室におけるワクチンの保有・保管等、ワクチンの費用負担について検討する必要があることが示された。また、会計検査院による2018年の報告書においても、予防接種政策の推進のためにはワクチンの経路を単純化する必要があることが指摘された(Cour des comptes 2018:226-229)。このようななか、助産師については、2016年に制定された医療システム現代化法により権限が拡大され22)、一定の条件下でワクチンの処方および投与を行うことができるようになった。また、薬剤師による予防接種の試行も開始された23)。新型コロナウイルス感染症のパンデミックを経て、ワクチンの接種をめぐる医療専門職の権(2)予防接種の担い手

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