健保連海外医療保障_No.132_2023年9月
30/79

27健保連海外医療保障 No.132予防接種によって健康被害が生じた場合の補償は、予防接種の位置づけ(義務/推奨)によって異なる。まず、「推奨(義務ではない)」の予防接種によって被害が生じた場合の補償の制度的枠組みは、通常の医療行為による健康被害の場合と同じである。つまり、健康被害を受けた本人(場合によっては弁護士、本人が死亡した場合は被扶養者)が地域を管轄する医療事故調停・補償委員会(commission de conciliation et dʼindemnisation des accidents médicaux)に申請し、付託を受けた委員会によって損害の程度が判断され、それに応じて手続きが行われる14)。義務ではない予防接種の補償制度の財源は医療保険によって賄われる(Hurel 2016:19)。これに対して「義務」の予防接種による健康被害の補償は、国家医療事故・医原性疾患・院内感染補償機構(Office national dʼindemnisation des accidents médicaux, des affections iatrogènes et des infections nosocomiales: ONIAM)によって行われる。ONIAMは、2002年の患者の権利と医療システムの質に関する法律によって創設された公施設であり、医療事故の被害に対して無料で迅速に補償措置を講じる役割を担っている。対象となるのは、生物医学の研究活動による医療事故や医原性疾患、院内感染によって引き起こされた損害である。義務の予防接種が引き起こした健康被害については、公衆衛生法典L3111-9条によって、その損害の全面的な補償はONIAMによって確保されることが定められている。この場合の健康被害は、国民連帯に基づき、国の財源によって補償される(Hurel 2016:19)。保健担当省によって毎年公表される「予防接種スケジュール」では、フランス居住者に適用される予防接種が年齢別に定められる。接種する必要のあるワクチンは、年齢のみならず、健康状態や従事している職業(感染リスクの高低)に応じて異なると考えられるが、予防接種スケジュールには一般の人々を対象とした予防接種の推奨に加えて、特別の状況にある人々に向けた予防接種の推奨も示される。最新の予防接種スケジュールは、2023年4月に公表されたものであり、「予防接種スケジュールとワクチンの推奨 2023」というタイトルが付された全88ページの文書である(Ministère de la Santé et de la Prévention 2023)。予防接種に関する最新の政策情報、感染症の種類別のワクチンの説明にくわえて、対象者別の義務・推奨ワクチンの必要情報が一覧表に整理され、分かりやすく示されている。2023年版の予防接種スケジュールには、23種類の感染症に対応するワクチンについての情報が掲載されている。それらの感染症は、掲載順に、百日咳(義務)、新型コロナウイルス感染症(政府およびHASのウェブサイトで最新情報が提供されるため、当該ウェブサイトの案内のみ)、ジフテリア・破傷風・ポリオ(義務)、黄熱(フランス領ギアナの住民に対しては義務)、季節性インフルエンザ(65歳以上の者等に推奨)、インフルエンザ菌b型感染症(義務)、A型肝炎(特定の者に推奨)、B型肝炎(義務)、レプトスピラ症(特定の職業従事者に推奨)、髄膜炎菌感染症(C群は義務)、ヒトパピローマウイルス感染症(若年者に推奨)、肺炎球菌感染症(義務)、エムポックス(政府およびHASのウェブサイトで最新情報が提供されるため、当該ウェブサイトの案内のみ)、狂犬病(特定の者に推奨)、ロタウイルス(乳児に対して推奨(2023年に新たに追加))、麻疹・おたふくかぜ・風疹(義務)、結核(特定の者に推奨)、水疱瘡(特定の者に推奨)、帯状疱疹(65歳〜74歳の者に推奨)である。予防接種カレンダーには、ワクチンの種類と接種時期を対象者別に示した一覧表が掲載され、どのタイミングでどのワクチンを接種しなければならないのかが分かりやすく示されている。その一例として、児童を対象とした予防接種の一覧表の抜粋(表3)を見てみると、2018年1月から義務となっているワクチンの種類と3. 健康被害の補償の仕組み4. 予防接種スケジュール

元のページ  ../index.html#30

このブックを見る