諸外国における予防接種について健保連海外医療保障 No.13226つぎに、2018年の予防接種義務の拡大による乳幼児の予防接種率への影響を確認しておきたい。義務拡大前の2017年生まれの児童と義務拡大後の2018年生まれの児童の24か月目の接種状況に関するデータから、総じて2018年生まれの児童の接種率が高まっていることが分かる(Ministère de la Santé et de la Prévention 2023:7)。具体的に見てみると、ジフテリア・破傷風・ポリオ・百日咳・インフルエンザ菌b型感染症の5価ワクチン(3回接種)では、2017年生まれの者の接種率は95.4%であったのに対して、2018年生まれの者の接種率は96.4%(1%増加)であった。同様の比較において、B型肝炎(3回接種)では91.8%から95.2%(3.4%増加)、肺炎球菌感染症(3回接種)では93.1%から95%(1.9%増加)、さらに麻疹・おたふくかぜ・風疹(2回接種)では86.3%から90.4%(4.1%増加)となっている。このように、接種義務の拡大の効果は具体的な数値からも確認することができる。予防接種政策を科学的な側面から支えているのは、高等保健機構(HAS)である。HASは保健医療分野における質の向上を目的として2004年に創設された独立した公的機関であり、予防接種のみならず、医療全般における質のコントロールにおいて中心的な役割を担っている。HASの任務は、①医療保険の給付対象となる薬剤、医療材料および医療行為を評価すること、②専門職のよい実践を促し、ワクチンと公衆衛生に関する推奨を策定すること、③入院・外来診療および福祉施設等における質を測定し、改善することである10)。つまり、ワクチンの推奨を策定することは、HASの重要な任務の一つである。予防接種政策におけるHASのこのような位置づけや役割は、2017年2月23日の法律11)によって導入されたものである。同法の4条によって、予防接種政策に参画し、ワクチンの推奨を発出することがHASの任務として新たに位置づけられた。これを受けて、2017年5月以降、HASは国家予防接種政策と予防接種スケジュールの策定にかかわっている12)。HASが独立して策定するワクチンの推奨は、保健担当大臣が定める予防接種政策や予防接種スケジュール作成の基礎となる。HASの組織において予防接種に関する任務を担うのは、2017年3月に設置された予防接種技術委員会(Commission Technique des Vaccinations)である。予防接種技術委員会は、感染病学、小児医学、微生物学、免疫学、疫学、公衆衛生、総合医療、医療経済、社会学などの多様な学問領域の専門家から構成される。当該委員会の委員はHASの評議会(Collège)により3年の任期で任命される13)。当該委員会は、予防接種の推奨、予防接種スケジュール、およびワクチンを対象とした宣伝活動に盛り込まなければならない情報に関し、HASの評議会で行われる審議の準備を行う役割を担っている。予防接種の推奨の策定においては、予防接種技術委員会で検討した推奨の提案がHASの評議会で承認され、その後に保健担当大臣に提出されるという流れになる。HASによって「推奨」とされたワクチンは医療保険の給付対象となる。ワクチンの費用が医療保険から償還される場合には、次のように定められた償還率と価格に基づいて行われる。まず、ワクチンの償還率は、HASの内部の透明性委員会(Commision de la transparence)における効能、画期性および公益性の観点からの評価をふまえて、全国医療保険金庫連合(UNCAM)によって決定される。ワクチンの価格は、HAS内部の公衆衛生・経済評価委員会(Commission évaluation économique et de santé publique)による経済性の観点からの意見をふまえて、保健担当省、社会保障担当省および経済担当省に設けられた省間組織である医薬品経済委員会(Comité économique des produits de santé)によって決定される。2. 予防接種の推奨
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