健保連海外医療保障_No.132_2023年9月
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諸外国における予防接種について表2 医療保険の給付の対象となる予防接種のである。「義務」とされる予防接種以外にも、さまざまな感染症に対する予防接種が推奨されているが、それらは、広く一般に推奨されるワクチン(例えば、ヒトパピローマウイルス感染症の予防ワクチン)と特定の状況にある者に推奨されるワクチン(例えば、結核を予防するワクチン)に区分される。表2に挙げられている感染症の予防接種は、すべて医療保険の給付対象である。予防接種義務の拡大は、一見すると感染症の予防における個人の自由の制限、さらには公的介入の強化であるようにみえる。しかしながら、政策の主眼は、従来の予防接種の「義務」と「推奨」をめぐる混乱を解消し(つまり、とくに重要な予防接種は「義務」)、予防接種に関する情報を分かりやすく国民に伝え、予防接種率を高めることにあると考えられる。2018年社会保障財政法案7)の第34条(予防接種義務の拡大に関する条項)の提案理由には、「ワクチンの接種率を改善し、感染症の再発生を回避するために、そして生後0〜18か月の乳幼児に対する予防接種の義務と推奨の区別をなくすために、予防接種を義務とする選択が不可欠である。これらの義務は、適切なワクチン接種率に到達し、義務の解除が予防接種の減少を引き起こさない場合には、解除することができる」と説明されている。ここから、予防接種義務の拡大は、予防接種が十分に行われるように2018年1月1日以降に生まれた児童に対する義務ワクチンジフテリア破傷風ポリオ百日咳B型肝炎インフルエンザ菌b型感染症髄膜炎菌感染症(C群)肺炎球菌感染症おたふくかぜ麻疹風疹出所:医療保険(Ameli)のウェブサイト(https://www.ameli.fr/assure/remboursements/rembourse/medicaments-vaccins-dispositifs-medicaux/vaccination)。推奨ワクチン髄膜炎菌感染症(B群)ヒトパピローマウイルス感染症新型コロナウイルス感染症(5歳〜)ロタウイルス胃腸炎なるまでの一時的な措置と理解することができる。必ずしも強権的な手段によって接種率を高めるという方向が目指されていないことは、予防接種義務の拡大とあわせて、それまで公衆衛生法典に設けられていた予防接種義務の不履行の場合の罰則規定が廃止されたこと(後述)からもうかがえる。フランスの予防接種政策は保健担当大臣によって実施されている。2004年の公衆衛生政策に関する法律によって、予防接種政策における国の役割が明確化され、公衆衛生法典のL3111-1条に予防接種政策の制度な枠組みが定められた。同条によれば、予防接種政策は、免疫獲得の条件を定め、必要な推奨を示し、予防接種スケジュール(calendrier des vaccinations)を公表する保健担当大臣によって、高等保健機構(Haute Autorité de santé:HAS)の意見をふまえて策定される。つまり、予防接種政策を担当する保健担当大臣は、「義務」あるいは「推奨」と位置づけられる予防接種の種類や対象者、接種の方法等を科学的根拠をふまえて示し、予防接種スケジュールという政策手段を通してそれらを分かりやすく市民に伝え、予防接種の適切な実施を推進していく役割を担っているといえる。特定の状況において推奨されるワクチン季節性インフルエンザA型肝炎結核水疱瘡帯状疱疹健保連海外医療保障 No.13224Ⅲ. 予防接種の制度的枠組み

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