23健保連海外医療保障 No.132風・ポリオ)の接種率は、2013年で99%、2016年には97%であり、他国との比較においても十分に高い水準である。これに対して、当時「推奨」とされていた予防接種(B型肝炎、麻疹・おたふくかぜ・風疹)の接種率は比較の観点からは必ずしも高い水準ではなく、改善の余地が残されている。2013年から2016年にかけて状況の改善がみられるものの、B型肝炎で88%(2016年)、麻疹・おたふくかぜ・風疹で79%(同)であり、先にみた接種率の目標に到達していない。このような状況のもとで、「推奨」のワクチンの接種率を改善することは重要な政策課題と認識された。フランスの保健医療政策の方向を示す「医療に関する国家戦略2018-2022年」では、ワクチンによる国民の保護の強化が課題の一つとして挙げられた。とくに推奨ワクチン(B型肝炎、髄膜炎菌感染症、麻疹・おたふくかぜ・風疹)については、接種率が不十分であり、感染症の流行、回避可能な死亡あるいは障害を引き起こす可能性があると説明された(Ministère des solidarités et de la santé 2017:27)。Fischerの報告書(2016年)では、予防接種の現状の課題が次のように分析されている(Fischer 2016:11)。乳児の1回目の接種率は非常に高いものの、1歳を過ぎてから接種率が大きく低下する。例えば、髄膜炎菌感染症(C群)の接種率は、2歳時点では70%であるが、10〜14歳で32%、20〜24歳で7%へと大きく低下する。また、他の感染症の予防接種についても2回目以降の接種率が低下する傾向があり、麻疹・おたふくかぜ・風疹の2回目の接種率は77%にとどまる。15歳時点の追加接種については、ジフテリア・破傷風・ポリオで84%、百日咳では70%、B型肝炎では43%となっている。また、2010年代に接種率が大きく下がった感染症としては、ヒトパピローマウイルス感染症(16歳時点で3回接種済みである者は2010年28%から2015年14%に低下)、リスクの高い人々を対象とした季節性インフルエンザ(2009〜2010年60%から2015〜2016年48%に低下)が挙げられる。予防接種をめぐる諸問題に対応して信頼を取り戻し、予防接種率を向上させるために、2010年代後半から本格的な検討が始まった。まず、2015年に当時のヴァルス(Valls)首相により委託を受けた国民議会議員のSandrine Hurelによって、ワクチン政策に関する報告書が提出された(Hurel 2016)。これを受けて、2016年に当時のトゥレーヌ(Touraine)保健担当大臣により、多くの市民や医療従事者の声を反映しながら予防接種政策の方向性を検討する「市民協議による予防接種の方向検討委員会(Comité dʼorientation de la concertation citoyenne sur la vaccination)」(Alain Fischerが委員長を務めた)が設置され、2016年12月30日に報告書が公表された(Fischer 2016)。この報告書では、予防接種義務の解除は達成されるべき目標であるとしながらも、信頼の喪失や接種率の低下という今日の状況下では、児童に推奨されるワクチンの義務を一時的に拡大する必要があることが示された。これらの検討をふまえて、2017年12月に制定された2018年社会保障財政法4)により、新たに8種類の感染症に対する予防接種の義務が導入された5)。従来の3つの感染症に対する予防接種義務とあわせると11種類の感染症に対する予防接種の義務が法定されたことになる。具体的には、従来から接種義務の対象であったジフテリア、破傷風、ポリオに加えて、百日咳、インフルエンザ菌b型感染症、B型肝炎、肺炎球菌感染症、髄膜炎菌感染症(C群)、麻疹、おたふくかぜ、風疹の接種義務が追加された。これらの11種類の感染症に対する予防接種は、医学的な禁忌の場合を除き、18か月までの乳幼児に対して義務的に行われる6)。なお、新たな接種義務が適用されるのは2018年1月1日以降に生まれた者である。これらの義務化された予防接種以外にも、感染症の予防において重要なワクチンの接種が推奨されている。表2は、現在、接種することが推奨されるワクチンを、それらの位置づけ(義務/推奨)に従って整理したも3. 近年の政策動向
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