健保連海外医療保障_No.132_2023年9月
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諸外国における予防接種について健保連海外医療保障 No.13214ログラム―麻しん・おたふく風邪・風しん―」を決定した。このプログラムでは、麻しんの症例数を年間に人口10万人当たり1人未満となるまで長期的に引き下げることが目標とされた。2012年の国家予防接種計画では、1999年の介入プログラムを更新することが予告された。WHOおよびドイツの麻しん撲滅の目標を達成するために様々な取組がなされ、麻しんの罹患者数ならびに麻しんによる死亡者数および健康被害を被った者の数は減少したが、人口10万人当たり1人未満という症例数の目標は達成できていなかったため、2015年に、連邦保健省、ロベルト・コッホ研究所、バイエルン州等5つの州、連邦医師会(Bundesärztekammer)等の関係団体から成る「行動計画ワーキンググループ」が「ドイツにおける麻しん・風しん撲滅のための行動計画2015-2020」を策定した。この行動計画は、2012年国家予防接種計画の更新の一部とされている。行動計画には、次の6つの目標が、地域別/2018年までの期限別に掲げられた76)。① MMR(麻しん・おたふく風邪・風しん)ワクチンに対してポジティブな考え方をする国民を増やすこと② 15か月未満の乳児の1回目のMMRワクチンの接種率を95%とし、これを維持すること③ 就学時健診の際の児童の2回目のMMRワクチンの接種率を95%とし、これを維持すること④ 全ての年齢集団において100万人当たり1人未満の症例とすることにより、麻しん・風しんのウイルスの伝播を阻止することができる集団免疫をつけ、これを維持すること⑤ 臨床診断された麻しんまたは風しんの症例のうち実験室診断により確定したものの割合を80%以上に引き上げること⑥ 市町村レベルにおいて発症した場合のマネジメントを強化することおよび一年間に報告された麻しんまたは風しんの症例の80%について更なる報告を行うことこの計画が奏功したためか、2020年にドイツは、風しんを撲滅したことがWHOから認められた77)。麻しんの症例数も確実に減っているが、2018年および2019年には500件台の症例が報告されていたことから、2020年に前述の麻しん防護法が制定された。2020年以降はCOVID-19の流行期であったことにより消毒等の衛生措置が十分に講じられていたことから、2021年に10件、2022年に15件と件数が少なくなっている78)。本章ではまとめとして、ドイツの予防接種の特徴として、①公的医療保険および保険医の役割、②接種による健康被害に対する補償、③接種の任意性、④様々なアクターの協働による政策の推進を挙げる。STIKOが勧奨している予防接種の費用は、公的医療保険が全額を負担する。このことは、ドイツにおいては集団接種が行われず、接種は任意で開業医において行われることが多いこととも整合的である。さらに、就学時や健診時に医師が予防接種記録の確認・助言を行っていることからも、予防接種を促進する上で、保険医が果たす役割は大きい。このように、ドイツにおいては、開業医が行う健康管理(病気予防)の一環として予防接種が行われている部分が大きく、費用も公的医療保険から拠出される。ドイツには、「社会的補償(soziale Entschädigung)」という概念(2024年から制度化)があり、予防接種被害に対する補償もこれに含まれる。この制度では、社会が特別な意味において責任を取らなければならない健康被害を被った者は、医療等の給付を請求する権利を有する。社会的補償の制度の始まりは、戦争Ⅵ. ドイツの制度の特徴1. 公的医療保険および保険医の役割2. 接種による健康被害に対する補償―社会的補償―

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