221.95.430411.26.66.20.90.10.2諸外国における予防接種について表5 麻しん患者数の推移 (単位:人)疑心が増大し、接種率は再び減少した57)。なお、1959年に、西ドイツの連邦行政裁判所は、帝国予防接種法が定める天然痘の予防接種の義務付けは、これが重い疾病の予防に資する限りにおいて憲法に抵触しないと判示しており58)、現在でも、具体的な感染症の流行により国民の間で現実的な感染の危険がある場合に一般的な予防接種の義務を課すことは憲法に反しないと解釈されている59)。東ドイツにおいても、戦後は帝国予防接種法が適用され、天然痘の予防接種は義務とされていたが、破傷風、ジフテリア、百日咳、結核およびポリオ(小児麻痺)等の予防接種は当初任意で行われていた。しかし、これらの予防接種はその後相次いで義務化された(1953年に結核(BCG)、1961年にジフテリア、破傷風、ポリオ、1964年に百日咳、1970年に麻しん)60)。その上、保育園の入園、大学進学、特定の職業に就く際などに予防接種の状況の確認が行われていた。予防接種が義務化された当初は、当該感染症の報告件数が激減するなどの効果を上げたが、東ドイツでは、複数種のワクチンを同時に接種する混合ワクチンの開発が遅れたために予防接種の回数が多くなり、国民の間に「接種疲れ」があったこと、また、製薬会社の製造設備の老朽化からワクチンの生産を十分に行うこともできなくなったことから、1980年代には接種率は下がっていた61)。麻しんは感染力が強く、特に乳幼児が感染すると、感染の4〜10年後に亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という治療不能の難病を発症し、死に至ることもある62)。WHOは、ドイツにおける麻しんの患者を年間80人程度に抑えることを要請しているが、2013年の罹患者は1,769人、2015年には2,465人など、WHOの要請をはるかに超える数となっていた(表5)。集団免疫については95%が目標とされているが、これも下回る状況であった。麻しんに対する強固な免疫をつけるには、予防接種を2回行うことが重要とされている。1991年以降は、STIKOが2回の予防接種(生後11〜14か月に1回目、15〜23か月に2回目)を勧奨しているが、1990年頃までは、麻しんに対して十分な免疫をつけるには1回の予防接種で十分だとされていた。そのため、1971年以降に生まれた者の中には麻しんの予防接種を1回しか受けていない者が多く63)、STIKOは、2010年7月から、1971年以降に生まれた成人のうち、麻しんの予防接種を1回しか受けていない者または接種したか否かが不明な者に対して、追加接種を推奨していた。しかし、連邦健康啓発センターが2014年に行った調査では、このSTIKOの勧奨を知っていたのは、該当の年代の回答者のうち約4分の1にすぎなかった。当該年代の者であって、麻しんの予防接種を全く受けていないか、または1回しか受けていない者に対してその理由を尋ねたところ、①麻しんの予防接種の必要性に関する知識がない(60%)、②予防接種による副反応の可能性について懸念がある(25%)、③麻しんは特に重い疾病ではないと思っていた(19%)の回答が多かった。実際、2017年に麻しんに罹患した者の年代別患者数1651,7694422,46532792654551676101520122013201420152016201720182019202020212022出所: “Epidemiologische Situation der Masern und Röteln in Deutschland in 2022.” Robert-Koch-Institut website <https://www.rki.de/DE/Content/Infekt/Impfen/Praevention/elimination0401.html#:~:text=Die%20%C3%BCbermittelte%20Fallzahl%20der%20Masern,(Fallzahl%202021%3A%2010)>を基に作成。100万人当たりの患者数健保連海外医療保障 No.132103. 麻しんの予防接種
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