健保連海外医療保障_No.132_2023年9月
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9健保連海外医療保障 No.132このうち約半数が障害等級100であり、重度の障害が残るケースが多いとみられる。ただし、健康被害の認定を受けるのは難しい。COVID-19を例に取れば、2023年2月1日の報道では、1億9,200万回のワクチン接種が行われ、およそ6,000件の健康被害の認定申請があった。このうち実際に認定されたのが253件、否認されたのが1,808件、未だ審議中のものが3,968件である49)。他方で、パウル・エーリヒ研究所には、2022年10月31日までに、副作用の疑いの報告が333,492件、重篤な副作用の疑いの報告が50,833件あった。全ての報告を合わせると1,000回当たり1.78件の報告となっている50)。前述のとおり、ドイツにおいて予防接種は義務ではなく、原則任意である。しかし、かつては天然痘の予防接種が長らく義務付けられていた時期があり、近年も必要に応じて麻しんの予防接種が義務化されたり、COVID-19の予防接種が医療機関や介護施設の従業員等に義務化されたりした51)。以下では、ドイツにおける予防接種の義務化をめぐる経緯を紹介する。欧州において天然痘は2世紀頃から知られていたとされ、流行を繰り返してきた52)。19世紀初めに天然痘が猛威を奮い、多くの人々が感染して命を落とした。そのため、人々の健康を管理し、改善することが近代の目標となり、重要な施策となった。19世紀初めには、幅広い層の住民に天然痘の予防接種を行うことが可能となったが、人々の科学と国家に対する不信感は根強く、予防接種を拒否する者が多かった。そのような中、バイエルン王国は、1807年に天然痘の予防接種を義務化した。この法律においては、天然痘に罹患していない3歳以上の者に対して予防接種を受けることを義務付けたほか、接種手帳等により予防接種を受けたかどうかを監視する体制を取ることが定められた。この法律を背景に、1870年前後には、予防接種に反対する組織立った運動もみられるようになった53)。1870年から1873年までの流行期に、天然痘による死者が18万人以上となったことを受け、1874年に帝国予防接種法54)が制定された。この法律は天然痘の予防接種を国民に義務付けるものであり、ドイツ帝国において――すなわち、ドイツ全域で――1歳時(天然痘に既に罹患していない場合)および12歳時(過去5年間に天然痘に罹患していない場合または予防接種を受けていない場合)における天然痘の予防接種の義務が導入された(第1条)。接種後には、接種証明書(Impfschein)が発行される(第10条)。学校長は、生徒が12歳までに予防接種を受けたかどうかを確認しなければならないこととされた(第13条)。また、同法では、法律に従わない親、医師または学校長に対する罰金および拘留が定められた(第14条〜第17条)。警察が強制力を行使して予防接種を受けさせることもあった。このような予防接種の義務に対しては、身体の自由に対する侵害だとして反対運動が起こり、実際の接種率は1930年代には60〜70%であったとされる。その原因として、国家の側でも義務の履行を監視する人員が十分でなかったことも挙げられている。20世紀に入り世界中で天然痘のワクチン接種が普及した結果、1979年にはWHO(世界保健機関)が天然痘の根絶を宣言した。西ドイツにおいては、天然痘の予防接種の義務は1976年から1983年にかけて段階的に廃止され、帝国予防接種法も1983年7月1日をもって廃止された55)。戦後、西ドイツでは帝国予防接種法が引き続き適用され、天然痘の予防接種が義務であった一方で、その他の予防接種は任意であった56)。戦後直後には、感染症に対する免疫を獲得したいという希望を持つ国民が多く、予防接種が任意であったとしても接種率は高かった。しかし1950年代になると、予防接種被害の事例が報道されたこともあり、予防接種に対する国民の猜Ⅳ. 予防接種の義務化をめぐる経緯1. 天然痘予防接種2. 東西ドイツの予防接種

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