7健保連海外医療保障 No.132防接種または法定の予防接種を原因とする健康被害、すなわち、公権力によりもたらされた被害の補償として行われている。そのため、ドイツでは、予防接種被害は公共の福祉のために個人が払った特別な犠牲であるという考えに基づいて、補償請求権が説明される38)。以下では最初に法的枠組みを、次に近年の補償件数を紹介する。予防接種被害に対する補償は、感染症防護法の「第12章 特別な場合における補償(Entschädigung)」の第60条〜第64条において定められている。ただし、これらの規定は、2024年1月1日以降、社会法典第14編―社会的補償―39)に移行する。社会法典第14編は2019年に制定され、2024年から施行される法律であり、戦争犠牲者、様々な暴力犯罪の被害者、予防接種の被害者等への国家による補償制度を統一的に定めたものである。感染症防護法では、予防接種被害(Impfschaden)は、「通常の副反応(Impfreaktion)の程度を超える予防接種による健康被害(gesundheitliche Schädigung)から生ずる健康上および経済上の帰結(Folge)」と定義される(第2条第11号)。補償の対象となる予防接種は、①州の保健省が勧奨した予防接種、②感染症防護法に基づき命ぜられた予防接種、③他の法律で規定された予防接種等とされる(第60条第1項)。予防接種被害に対する補償は、連邦戦争犠牲者援護法40)を準用した給付(Versorgung)として行われる(第60条第1項)。連邦戦争犠牲者援護法は、軍務に関連して損傷を受けた者が、損傷により健康上、経済上の影響を受けた場合に、本人またはその遺族が有する各種給付の請求権を定める法律である41)。予防接種被害の補償を所管する官庁は、各州において連邦戦争犠牲者援護法に基づく給付を所管する官庁(Versorgungsamt. 以下「援護官庁」)であり(第64条)、予防接種により健康被害を被った者は、援護官庁に申請の上、健康被害を認定されれば給付を受給する。主な給付は、治療給付、障害年金等であり、その概要は次のとおりである。治療給付(Heilbehandlung)は、健康障害または健康障害の結果生じた職業遂行能力もしくは稼得能力の減少を除去・改善し、介助・介護が必要な状況を回避・軽減し、可能な限り広範な社会参加を可能とすることを目的として行われる。治療には、外来受診、医薬品、リハビリ・運動療法・言語療法・作業療法等、入院治療、リハビリ施設における治療、在宅看護等がある。障害年金は、基礎年金(Grundrente)と、各種の加算(Zulage)から成る。基礎年金は、身体的、知的または精神的な障害による諸機能の低下が生活に及ぼす影響に基づいて障害等級(10刻みで100まで)が判定された上で、障害等級が30以上である場合に給付される(連邦戦争犠牲者援護法第30条。以下、この項の条項は同法のものとする)。判定は、「障害年金給付原則(Versorgungsmedizinische Grundsätze)」42)に基づいて行われる。この原則において、障害等級は、頭部・顔、神経系、目、耳、鼻など体の部位別に定められている。基礎年金の額は、1か月につき、障害等級に応じて164ユーロ(障害等級30)から854ユーロ(障害等級100)までとされている(第31条第1項。2022年7月1日以降2023年5月末現在の額)。65歳以上の者であって、障害等級が50以上であるものは、毎月の基礎年金額が34〜51ユーロ増額される(同項)。また、障害等級が100である場合には、毎月99〜609ユーロの最重度障害加算がある(同条第4項)。そのほか、障害により従前同様の職業活動を行うことができなくなり、稼得能力が減じた場合の調整年金(Ausgleichsrente. 第32条・第33条)、配偶者加算(第33a条)、児童(1)予防接種被害の定義(2)対象となる予防接種(3)給付―連邦戦争犠牲者援護法の準用―1. 法的枠組み
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