薬局・薬剤師に求められる役割健保連海外医療保障 No.13166メディケアとの価格交渉に対応しない製薬会社には、ペナルティとして物品税が課せられる。物品税の額は、医薬品の総売上高の65%から始まり、四半期ごとに10%ずつ増加し、最大で95%となる。対象医薬品を服用するパートBまたはパートDの加入者に対して、製薬会社や病院、医師がMFPを上回る価格で提供した場合には、実際に請求した価格とMFPとの差額の10倍の額を罰金として支払わなければならない。これまでメディケアでは、パートBおよびパートDの償還対象となる医薬品の価格上昇を制限する手段がなかった。一方、メディケイドにはリベート(払戻し)制度が導入されており、メディケイドの償還対象となる医薬品の価格がインフレ率を上回って上昇した場合に、製薬会社はリベートを支払わなければならないことになっていた。その結果、メディケイドでは償還対象となる医薬品価格を一定程度、抑制することに成功していた。今回の改革によりメディケアに導入されたインフレリベートは、パートBやパートDの対象となる医薬品の価格がインフレ率(全都市消費者物価指数(CPI-U)に基づく)を上回って引き上げられた場合に、その差額をリベートとして支払うことを製薬会社に義務づけるというものである。薬価の変動は、パートBでは平均販売価格(ASP)、パートDでは平均仕切価格(AMP)に基づいて測定される。リベートとして支払われる差額の総額は、メディケアが1年間に購入した当該医薬品の総数に差額分を掛けて算出され、メディケア財政運営のための特別会計である補足的医療保険信託基金(Supplementary Medical Insurance Trust Fund)に納付される。製薬会社がリベートを支払わない場合には、少なくともリベートの125%に相当するペナルティの支払いが求められる。パートDのインフレリベート制度は、2022年10月1日から開始されている。12か月間の薬価変動に基づいて差額の算定がなされ、2023年にリベートの支払いが義務づけられる。その後は12か月ごとに適用される。パートBについては2023年10月1日から開始される。インフレリベートの導入により薬価の上昇を抑制し、メディケア受給者の自己負担分の増大を防ぐとともに、パートBやパートDの保険料引き上げの抑制に結びつくことが期待されている。他方で、インフレリベートに対応するために、製薬会社が販売価格をあらかじめ高く設定するリスクが指摘されている。現在のパートDの薬剤給付では、①保険免責、②初期カバレッジ(initial coverage)、③カバレッジギャップ(coverage gap)、④高額費用カバレッジ(catastrophic coverage)など複数の段階が設定されている。保険プランの加入者が使用した年間の薬剤費総額がどの段階にあるかによって、メディケアの給付率や加入者の自己負担割合は異なったものとなる(図1を参照)。1.で前述したように、薬剤費総額が②初期カバレッジおよび③カバレッジギャップの段階では、加入者は、ブランド医薬品であれ、ジェネリック医薬品であれ、薬剤費の25%相当分を負担する。加入者の購入した薬剤費総額がさらに増加し、④高額費用カバレッジに到達した場合、費用の80%はメディケアが負担し、民間の保険プランが15%を負担する。近年、高額費用カバレッジの段階にある加入者への保険プランからの支出は、パートDにおける総支出の45%を占めるようになっている。④高額費用カバレッジの段階にある加入者は、低所得者補助(LIS : Low-Income Subsidy)の受給資格を有しない限り、費用の5%を自分で負担しなければならない。加入者の自己負担に限度額は設けられていないため、年間数千ドルの負担となるケースも存在する。2019年の時点で150万人の加入者が高額(2) メディケアにおけるインフレリベートの導入(3) メディケア・パートDの薬剤給付の再設計(給付率の変更および加入者の自己負担の軽減)
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