健保連海外医療保障_No.131_2023年3月
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薬局・薬剤師に求められる役割健保連海外医療保障 No.13164高額費用カバレッジ$11,20615%5%5%カバレッジギャップ25%25%$4,66025%25%初期カバレッジ$505保険免責保険プラン加入者保険プラン出所: Kaiser Family Foundation, ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■(Oct. 22, 2022)をもとに筆者作成。製薬会社がブランド医薬品を70%ディスカウント製薬会社メディケア80%5%75%100%100%インフレ抑制法はビルド・バック・ベター法案の予算規模を大幅に縮小させたものである(同法による歳出総額は4,330億ドルであり、そのうち3,690億ドルが気候変動対策にあてられる)。法案は、下院、上院を通過し、バイデン大統領の署名により成立した。インフレ抑制法では、気候変動対策をはじめとした多くの施策が予定されており、その中には、メディケアにおける薬剤給付改革や低所得者向けの医療費補助が含まれている。今回の薬剤給付改革の背景として、アメリカにおける医薬品市場の状況について述べる。処方箋医薬品の約80%がジェネリック医薬品、20%がブランド医薬品であるが、薬剤費支出では後者が全体の8割を占めている。さらにこうしたブランド医薬品の中でも、少数の高価格帯の製品に支出が集中する状況となっている。ブランド医薬品が高価格となっている要因には次の2つの事情がある38)。第1は、製品間での競争の欠如である。ブランド医薬品に代替治療薬が存在しない、または当該製品がプロテクトクラス(パートDの保険プランで必ずカバーしなければならない医薬品、がんやHIVの治療薬など)に含まれる場合、製品間での競争が存在しないために医薬品は高額なものとなる。第2は、保険プランの加入者に直接利益がもたらされない形での競争である。代替的治療薬の存在する医薬品については、保険プランのフォーミュラリーへの登載をめぐって製薬会社間で競争が生じている。製薬会社は、保険プランや処方箋を管理する事業者(pharmacy benefits manager)にリベートを提供することで価格競争を行っており、保険プランなどへの払い戻し額を大きくするために定価を引き上げることもあるとされている。保険プランを提供する保険会社は、リベートを得ることで保険料を低く抑えることが可能となるが、医薬品の定価に基づいてその一定割合が患者負担となるため、加入者の負担は増大することになる。メディケアの薬剤給付改革は、以上のような医薬品市場の状況を前提としている。メディケア薬剤給付改革のひとつが、連邦政府による薬価交渉の導入である。メディケアのパートDでは、民間保険プランを通じて処方薬剤給付を提供しているが、連邦社会保障法において連邦政府による価格交渉は禁止されてきた。すなわち、保健福祉省長官が、製薬会社、薬局、保険プランの間の交渉に介入してはならず、保険プランに対して特定のフォーミュラリーの使用を要求したり、パートDで提供される医薬品に関して価格体系を設けてはならないと定めていた(介入禁止規定)。メディケア・パートBの対象となる医薬品についても保健福祉省長官は価格交渉を行っておらず、パートBでは平均販売価格(ASP : Average Sales Price)(連邦政府を除く米国内のすべての購入者の平均価格、リベート分を含む)の106%相当分を医療提供者に支払ってきた。近年、アメリカでは薬価の高騰が問題となっており、成人の3割が医師の処方どおりに医薬品を服用できていないといった事態となっている39)。このため、民主、共和両党は過去8年間(1)連邦政府による価格交渉の導入図1  メディケア・パートDの標準的な給付における費用負担割合(2023年)

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