健保連海外医療保障_No.131_2023年3月
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63健保連海外医療保障 No.131バイダーとしての地位を求める動きは、今後さらに強まると予想される。薬剤師をメディケア・プロバイダーとして位置づけるための法案は、これまでに何度も連邦議会に提出されてきた。その最も新しいものが、2021年4月にG・K・バターフィールド(Butterfield)下院議員らが超党派で提出した法案(The Pharmacy and Medically Underserved Areas Enhancement Act)(H.R. 2759/S.1362)である35)。これは、医療が不足している地域で薬剤師がサービスの提供を行った場合に、メディケア・プロバイダーとしてパートBによる薬剤師への支払いを定めたものである(償還率は医師の85%となる)。ただし、支払い対象となるサービスは、医師が提供すればメディケア・パートBの償還対象となるものに限られる。2022年12月の時点で法案成立の見通しはないが、今後も同様の法案が提出される可能性は高い。パートDは、2003年のメディケア改革法に基づいて、メディケア受給者に処方薬剤給付を提供するために創設された制度である。パートDが創設されるまで、メディケアによる薬剤給付の範囲は限定的であり、メディケアを受給する高齢者は、民間保険プランやメディギャップ36)に加入する必要があった。低所得層を中心にこうした民間保険に加入できない高齢者が存在しており、パートDの創設は、メディケアにおける長年の課題を解決するものであった。パートDは任意加入であり、パートA(入院医療等をカバーする)の受給資格者またはパートBの加入者であれば、パートDに加入できるが、加入者は保険料を負担する必要がある。2021年の時点で4,990万人(メディケア受給者の約78%)がパートDに加入しており、総給付費は約1,044億ドルである37)。パートDでは、民間保険会社が提供する各種保険プランを通じて処方薬剤給付が行われる。こうした保険プランとして、処方薬剤給付プラン(PDPs : Prescription Drug Plans)や、パートCのメディケア・アドバンテージ・プランと処方薬剤給付を統合した保険プラン(MA-PDs : Medicare Advantage Prescription Drug Plans)があり、保険料や一部負担金の設定はそれぞれ異なる。薬剤給付のみのプランの平均的な保険料額(2023年)は月額32.74ドルである。2023年には全米で合計801のパートDの処方薬剤給付プラン(以下、「保険プラン」という)が提供される予定である。保険プランでは、フォーミュラリー(formulary)(保険償還対象となる薬剤リスト)を作成し、標準的な給付を加入者に提供することとなっている。これらのプランは処方薬剤給付として、食品医薬品局(FDA)が認可した薬剤やバイオ医薬品の大半を必ず含めなければならない。2023年におけるパートDの標準的な処方薬剤給付では、加入者の薬剤費負担が年間505ドル(免責額)を超えた段階から保険給付の対象となる(それまでは全額自己負担である)。年間505ドルから1万1,206ドルまでの薬剤費については、保険プランや製薬会社のディスカウントにより費用の75%がカバーされ、加入者は残りの25%の費用を負担する。薬剤費負担が1万1,206ドルを上回ると費用の95%はメディケアと保険プランでカバーされ、加入者は費用の5%を負担する。保険プラン加入者の自己負担、保険プラン、製薬会社による割引、メディケアによる費用負担割合については、図1を参照されたい。2.(3)で述べるようにメディケアの薬剤給付改革により、2025年以降、パートD加入者の薬剤費の自己負担は軽減される。2. インフレ抑制法による薬剤給付改革バイデン政権は、2022年8月16日にインフレ抑制法(Inflation Reduction Act of 2022)を成立させた。民主党は2021年7月に3兆5,000億ドル規模のビルド・バック・ベター法案(Build Back Better Act)を提出していたが、党内調整が難航し、成立が難しい状況となっていた。Ⅲ. メディケアにおける薬剤給付改革1. メディケアにおける処方薬剤給付

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