健保連海外医療保障_No.131_2023年3月
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薬局・薬剤師に求められる役割健保連海外医療保障 No.13162で実施する場合には、州の薬事委員会の特別な承認が必要となる29)。アメリカでは医療従事者の不足が問題となっており、特にプライマリケアに関わる医療従事者の不足が今後、深刻化すると予測されている。2030年までに少なくとも4万3,000人のプライマリケア医と14万人の医師が不足するとの予測もみられる30)。米国労働統計局の推計によると、2019年の時点で地域の薬局で勤務するなど地域密着型の薬剤師は18万6,000人存在しており、薬剤師の活用はこの問題の解決を図るひとつの手段になると考えられている。アメリカの大半の地域では、地域に密着して営業を行う薬局が存在する。人口の90%以上がこうした薬局から5マイル以内に住んでおり、高い頻度で薬局を訪れている。地域密着型の薬局は、農村部や低所得層の多い地域にも位置していることから、健康上のリスクが高い人々の医療へのアクセスの改善を図る上で一定の役割が果たすことが期待されている。新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、このような地域密着型の薬局や、そこで勤務する薬剤師の役割を改めて認識させることとなった。第1には、高血圧や糖尿病、呼吸器疾患といった慢性疾患患者への対応である。感染が拡大した当初の段階では、多くの医療機関が新型コロナウイルス感染症の患者以外の者の受診を制限したため、慢性疾患を有する患者は定期的に受診することが困難となった。地域の薬局は、これらの患者に対して血糖値、HbA1c、脂質スクリーニングなどの必要な臨床検査を行った31)。また、新型コロナウイルス感染症の影響により、医療機関でのワクチン接種は、特定の病気を持つ患者などに限定されたため、各種のワクチン接種の実施が困難となった。このため、薬剤師は、小児ワクチン接種などのワクチン接種においても貢献することとなった。第2に、新型コロナウイルス感染症の感染防止のために、感染者や濃厚接触者を検査、隔離することが重要となっていた。これらの役割は地域の公衆衛生機関が担っていたが、新型コロナウイルスの簡易迅速検査(point-of-care testing)とワクチン接種においては、地域の薬剤師が重要な役割を果たした。保健福祉省長官は、2020年1月に公衆衛生上の緊急事態を宣言し、これに基づいて薬剤師による新型コロナウイルスの検査とワクチン接種の実施が可能となった32)。新型コロナウイルス感染症の感染が拡大する以前にも、全米の多数の薬局において、インフルエンザや溶連菌性咽頭炎を検出するための簡易検査が行われており、実施上の問題はなかった。多くの薬局が検査を実施し、検体の採取を行ったほか、家庭用検査キットの販売などがなされた。メディケア・メディケイド・サービスセンター(Center for Medicare & Medicaid Services)は、検査費用を薬局に償還するなどの対応をとった33)。65歳以上の高齢者を対象とした公的医療保障制度であるメディケアにおいて、薬剤師は、医師のような「プロバイダー」として位置づけられていない34)。このため、メディケア・パートB(医師の診療費等をカバーする)において、薬剤師は、自身のサービス提供に基づいて直接、連邦政府から支払いを受けることができない。メディケア・プロバイダーとしての承認の獲得は、薬剤師の関係団体において長年の課題となってきた。前述のように、メディケア・パートDでは、保険プランによる薬物治療管理(MTM)の提供を義務づけており、薬剤師が主な業務を担っている。また、退役軍人援護サービスや先住民医療サービスにおいても、薬剤師を一定の処方権限を有するプライマリケア担当者として位置付けている。このほか、カリフォルニア州など一部の州では、薬剤師を州法上のプロバイダーと位置づけている。薬剤師の業務範囲の拡大にともない、薬剤師団体からのメディケア・プロ(4)地域に密着した薬剤師、薬局の役割4. メディケアプロパイダーとしての薬剤師の位置づけ

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