健保連海外医療保障_No.131_2023年3月
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59健保連海外医療保障 No.131上の患者に自己投与型ホルモン避妊薬を調剤することが認められている16)。このほか、アイオワ州など17州で、薬剤師がニコチン置換型禁煙補助剤を処方することが許可されている。また、すべての州において薬剤師によるワクチン接種が可能である。当初は、医師会の反対があり、薬剤師によるワクチン接種はインフルエンザワクチンに限られていた。現在は、州によって相違があるものの、薬剤師が接種できるワクチンの範囲は広がっている。例えば、帯状疱疹、肺炎、小児用ワクチン、ヘルペス、B型肝炎、髄膜炎菌、破傷風などである。最近では新型コロナウイルス感染症のワクチン接種の担い手として、薬剤師は重要な役割を果たすこととなった。第2に、一部の州では、薬剤師免許に上級の資格を設け、この資格を取得した薬剤師に独立した処方権を認めるという方式がとられている(ニューメキシコ州、カリフォルニア州、モンタナ州、ノースカロライナ州)17)。例えば、カリフォルニア州における上級薬剤師(Advanced Practice Pharmacist)の場合、①薬物治療の開始・調整・中止、②薬物関連検査のオーダーと検査結果の解釈、③他の医療従事者との連携による疾病の評価と管理、④患者を他の医療従事者に紹介するなどの権限を有する18)。業務範囲の拡大にともない、薬剤師による専門的判断の行使が問題となる。薬剤師には、処方箋による調剤が患者にとって安全かつ効果的であるかを判断すると同時に、処方箋の正当性を判断する責任があると認識されている。例えば、ペンシルバニア州薬事法は、薬剤師の義務として次のような事項を定める。「薬剤師は、薬剤を処方された者以外の者が薬剤を使用することを知った場合や、薬剤が転用、乱用、誤用されることを知った場合には、規制薬剤や一般用医薬品の処方箋に基づいて故意に調剤を行ってはならない。さらに、薬剤師は、患者の安全のために専門的な判断を行い、処方箋に基づく調剤を行うべきでないと考える場合には、調剤を拒否することができる。」19)薬剤師が懸念すべき問題のひとつとして、処方箋の重複発行がある。これは、患者が他の医師から同一ないし類似の薬を処方されていることを知らないまま、医師が患者に薬剤を重複して処方するというものである。その結果、投薬の重複により、患者に健康上の問題が生じる可能性がある。このような場合、薬剤師は臨床実践ガイドラインに基づき、処方箋の扱いについて専門的判断を行うことが求められる。このほかにも、薬剤師が、患者の安全のために処方箋や病院の医師の指示に従わずに、専門的判断に基づいて調剤を拒否することが必要な場面がある。もっとも多くの州議会では、州法において薬剤師の判断の尊重を包括的に規定することには慎重である。前述のペンシルバニア州では、薬剤師の専門的判断の適切性については専門家のガイドラインと州薬事委員会の判断に従うとしている20)。州の薬事委員会の連合組織である全米薬事委員会連合(National Association of Boards of Pharmacy)は、CDTMに関する協定に以下の事項を含めることを推奨している22)。(4)医師との共同管理による薬物治療の実施医師の指導の下で薬剤師が、患者の薬物治療について一定の権限を行使できる仕組みは、薬物治療共同管理(CDTM:Collaborative Drug Therapy Management)とよばれる。CDTMは、1970年代にカリフォルニア州やワシントン州で開始され、各州で導入が進んだ。2021年の時点では、48の州において、この仕組みに基づいて薬剤師による薬物治療が可能となっている21)。各州におけるCDTMの定義には相違があり、薬剤師が行使できる権限のあり方も区々である。一般的には、医師が患者を診断した結果、薬物治療が最も適切な治療法と判断した場合に、医師と薬剤師の間で薬物治療に関する協定(collaborative practice agreement)を締結し、薬剤師による薬物治療が開始される。(3)薬剤師による専門的判断の行使

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