薬局・薬剤師に求められる役割健保連海外医療保障 No.13158局では、薬剤師が患者へのケアに集中し、効率的に業務を行うために、調剤技師を配置することが一般的となっている。⑧ 記録の管理など管理運営上の業務の担当。⑨ 他の医療従事者に対して、患者への適正な薬物治療を指導する。このほか、薬局の経営や薬局チェーンの店舗の運営を担当する薬剤師は、在庫管理など事業運営に関わる業務も担当する。薬剤師の業務は、かつては医師が作成した処方箋どおりに調剤することに限定されており、薬剤師が独自に知識や技能を行使し、医師と患者の関係に関わることは想定されていなかった。しかし、今日では、薬剤師は、薬物治療について患者への指導や相談を担当し、薬剤の処方や治療中止等についても一定の権限を有するようになっている。これらは、連邦法や州法上の規定に基づくほか、(4)でみるように医師と薬剤師の事前の取り決めに基づいて行われている。その後、1990年の包括財政調整法(OBRA 90 : Omnibus Budget Reconciliation Act of 1990)により、州がメディケイドにおいて処方薬剤給付を行う場合には、薬剤師による患者のカウンセリングと薬剤使用評価(drug utilization review)の実施が義務づけられた。OBRA 90の成立以降、多くの州が法律や規則を制定し、メディケイド以外でも薬剤師による薬剤使用評価が広く行われるようになった。また2003年のメディケア改革法(Medicare Prescription Drug, Improvement, and Modernization Act)により、メディケア・パートD(処方薬剤給付プログラム)において、薬剤師による薬物治療管理(MTM : Medication Therapy Management)の実施が可能となり、州における薬剤師の業務範囲の拡大を後押しすることとなった14)。さらにオバマ政権下で2010年に成立した医療制度改革法(Patient Protection and Affordable Care Act)では、慢性疾患患者を対象にしたMTMの拡充が行われた。最近では、2022年7月に食品医薬品局(FDA : Food and Drug Administration)が、すべての薬剤師に対して新型コロナウイルスの治療に用いる抗ウイルス剤(Paxlovid)の処方を許可するという動きがみられる。2000年以降、多くの州で薬剤師の業務に関する州法が制定ないし改正されており、以下のように、薬剤師が特定の薬剤を処方することや、処方箋を変更することが可能となっている。第1に、一定の薬剤に関して、多くの州において薬剤師による処方が許可されるようになっている15)。薬剤師によるナロキソン(オピオイド拮抗薬)の処方は、すべての州が許可している(2022年5月時点)。また、21の州では、医師との共同診療協定(collaborative practice agreement)がなくても、薬剤師が一定の避妊薬を処方することが可能である(2022年9月1日時点)。例えば、ウエストバージニア州では、州薬事委員会が承認した研修プログラムを修了した薬剤師が、患者のプライマリケアを担当する医師に対して通知を行うことを条件に18歳以2)州レベルでの業務範囲の拡大1970年代後半にカリフォルニア州では、薬剤師や看護師に処方権を部分的に付与する試験的事業が行われた。その結果、薬剤師の活動が、診療の質を維持しつつ、医療費の削減に貢献することが明らかとなり、1981年に医師の指示の下で薬剤師に処方権の一部を付与する州法が制定された。カリフォルニア以外のいくつかの州においても同様の州法の制定が進み、薬剤師が薬剤の用量調整や臨床検査のオーダー、簡単な診察等を行うことが可能となった。(2)薬剤師の業務範囲の拡大1)連邦レベルでの業務範囲の拡大薬剤師の業務範囲の拡大は、1960年代に先住民医療サービス(Indian Health Service)(ネイティブ・インディアンとアラスカ先住民のために連邦保健福祉省が運営する医療組織)において、薬剤師に患者への処方等を行う権限を与えたことが始まりとされている13)。
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