健保連海外医療保障_No.131_2023年3月
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アメリカで薬剤師となるためには、6年制の教育課程を経て薬学博士の取得が必要である。さらに卒後研修を受けて認定専門薬剤師として臨床現場で働くことも一般的となっている。調剤業務にとどまらず、医師との協定締結等を通じて薬剤師の業務範囲の拡大が進んだ背景には、このような高度専門職としての薬剤師の位置づけがある。 高齢者を対象とした公的医療保障制度(メディケア)では、薬価の高騰に対応して給付構造の見直しが課題となっていた。2022年に成立したインフレ抑制法では、メディケアの薬剤給付の改革が予定されており、高齢者の処方薬剤へのアクセスの改善が期待されている。55健保連海外医療保障 No.131本稿では、アメリカの薬剤師および薬局の状況とメディケアにおける薬剤給付の改革を取り上げる。教育課程の高度化や専門薬剤師の認定の仕組みを通じて、専門職としての高度化が図られた結果、薬剤師の業務範囲はわが国と比べて広く設定されている。本稿の前半部分では、このような仕組みが定着するに至った経緯と現状を検討する。次に、公的医療保障制度における薬剤給付の仕組みとしてメディケア・パートDにおける近年の改革を取り上げる。メディケアでは、2003年にパートD(処方薬剤給付プログラム)が創設されたが、薬価の高騰に対応して給付内容の改善が課題となっていた。2022年8月に成立したインフレ抑制法におけるメディケアの薬剤給付改革は、こうした課題に対応するものとなっている。本稿では、その主な内容を検討する。2021年の時点でアメリカには約32万3,500人の薬剤師が存在する1)。アメリカで薬剤師となるためには、大学の薬学部(school of pharmacy)において薬学博士(Pharm D)の学位を得た後、州が実施する試験に合格して薬剤師免許を取得する必要がある。免許を取得した薬剤師の約3分の1は、卒後研修を通じてさらに高度な修練を積み、認定専門薬剤師(board certified pharmacist)として活動する。薬剤師のおもな働き方は次のようになっている。1)薬局薬剤師(community pharmacist)薬剤師の約40%は、チェーンのドラッグストアや独立系の薬局で働いている2)。薬局薬剤師は、処方箋に基づいて調剤した薬剤を患者に提供するほか、処方箋やOTC医薬品に関する質問、患者が抱える健康問題についての相談などに対応する。地域の薬局では、薬剤師がインフルエンザなどのワクチン接種を行う。金沢大学教授石田 道彦Ishida MichihikoⅡ. 薬剤師と薬局の役割1. 薬剤師の養成と薬剤師免許の取得(1)アメリカの薬剤師Ⅰ. はじめに特集:薬局・薬剤師に求められる役割アメリカの薬剤師、薬局とメディケアの薬剤給付改革

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