健保連海外医療保障_No.131_2023年3月
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51健保連海外医療保障 No.131に合わせた薬局・薬剤師ビジョンやレポートが、英国の薬局・薬剤師の役割の拡大の後押しをしている。英国では2000年代に入り、NHSの中でも予防医学に焦点を置く中で、薬局・薬剤師の公衆衛生や予防医学での役割拡大に期待が寄せられ始めた。それは2004年に発表された政府白書「Choosing health: making healthier choices easier」17)でも顕著に言及された。2008年にはイングランドの薬剤師の役割に関する政府白書「Pharmacy in England:Building on strength ‒ delivering the future」19)でも予防医療の部分での薬局・薬剤師の役割に強く期待がされ、Healthy Living Pharmacyの取り組みの拡大についても言及されている。公衆衛生での薬局・薬剤師の役割は2017年にPublic Health Englandから発表された「Pharmacy:A way forward for public health」20)でも強く推奨されている。国民の健康格差是正のため、また医療システムへの需要の高まりから、医療アクセス拡大の必要性が高まる中、薬局・薬剤師の臨床分野での役割拡大も、病院薬剤師の役割拡大と共に推進され、上記の2008年発表のイングランドの薬剤師の役割に関する政府白書19)でも軽医療や長期疾患の医薬品療法管理に関する薬剤師の役割について言及されている。調剤中心の薬局業務から患者中心の医療提供へ変革することを目的に、対人業務への償還付与への移行も言及され、サービスの価値について言及されている。薬剤師の役割拡大が公的機関から示された事や、2010年にRoyal Pharmaceutical Society of Great Britainが規制機関のGPhCと職能団体のRPSに分かれた事もあり、2013年にはRPSより「Now or Never:Shaping Pharmacy for the Future」21)という薬剤師ビジョンが発表された。ここでは、新しい薬局モデルとして、より対人業務に焦点を当て、更に他医療従事者との協働モデルの必要性が示された。RPSは2022年に更なるビジョンを「A vision for pharmacy professional practice in England」22)にて発表し、ここで、Health and Care Act 2022にて新しくNHSで構成された包括ケアシステムに言及した。2022年に発表されたFuller Stocktake report23)でも特定されたプライマリーケアにおける協働医療の提供を後押しし、薬局・薬剤師による、多職種医療従事者との協働医療の提供モデルについて推奨している。2019年に発表されたNHS Long Term Plan24)により明らかにされた新たなNHSプライマリーケアの仕組みがPCNsである。これにより今まで分断されていた多くの地域ケアサービスを約3万から5万人の住人程の「neighbourhood level」でまとめ、一貫した地域ケアを提供する事を目指している。PCNではGP、薬剤師、看護師や他多くの医療従事者、そしてソーシャルケアやボランティア分野の医療従事者がチームを組む。地域の薬局はPCNの重要な一角を務める。PCNへの積極的な参画は、CPCSの一部であり償還の程度を定めるPharmacy Quality Schemeでも推奨されている。薬局は、自身のLocal Pharmaceutical Committeeを通し、自身が居るPCNのクリニカル・リードと合意の上、PCNへ参画する。例としては、PCNの予防分野として、地域でのインフルエンザのワクチン投与等が挙げられる。世界中で起きたコロナ禍での医療システムの混乱は、英国も例外では無い。COVID-19が蔓延し始めた際には、医療資源を守るため、そして新たな感染を防ぐために、GP、歯科医、病院がその門戸を閉じた。その混乱の中、薬局はその門戸を開け続け、ロックダウンによる不安を抱える地域住民の毎日の医療や健康を支え続2. 薬剤師ビジョンでの役割の明示Ⅸ. 地域ケアサービスの中での薬局の役割と多職種連携Ⅹ. コロナ禍の影響

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