フランスでは伝統的に、薬局とは、医療専門職である薬剤師が常駐し、医薬分業制の下、医師の処方箋を必要とする処方箋薬とそれ以外の非処方箋薬を中心に、対面での患者への医薬品等の小売を独占的に行う施設であった。近年では、薬剤師に求められる役割も多様化し、薬局では、医薬品の小売以外にも、遠隔診療の実施や患者への支援、ワクチン接種などの予防に関する取り組みなど、特に公衆衛生政策の実施に関係するさまざまな活動が、法令や薬剤師全国協約などで定める枠組みの下、医療のデジタル化の進展なども背景に、展開されるようになっている。薬局・薬剤師に求められる役割健保連海外医療保障 No.13124フランスの社会的保護は、社会保険の枠組みを用いてリスクを生じた者等に給付を行う社会保障と、ニーズを抱える者に対して主に公費から給付を行う社会扶助および社会福祉からなる。これらのうち、前者の社会保障は、社会職業的基準に基づいて編成・構築された複数の「制度(régimes)」によって構成されてきた。すなわち、主に民間の商工業被用者を対象とする一般制度、公務員、鉱山労働者やフランス国鉄(SNCF)職員など特定の職域の被用者を個別に組織する特別制度と総称される諸制度、農業経営者および農業労働者を対象とする農業制度、商工業自営業者、手工業者および自由業者などを対象とする自営業者制度である。ただし、自営業者制度は、2005年に自営業者社会制度(RSI)として再編され、職種の別を超えた制度の統一化が図られたものの、結局は諸課題を克服できず、RSIは2018年から段階的に廃止され、自由業者の年金部門を除いて、一般制度に統合されることになった。これらの法定の制度は基礎制度とも呼ばれ、基本的に、医療、老齢、家族の各部門(制度によってはそれらの一部)について給付を行っている。その管理運営主体(保険者)として、それぞれに医療保険、老齢保険、家族手当の各金庫があり、全国金庫と地方の諸金庫からなる組織体系を構築している。これらの法定基礎制度に加えて、医療や年金については補足的な制度が存在する。医療に関しては、法定医療保険ではカバーされない自己負担分等について、共済組合や相互扶助組織、民間保険会社が担い手となる補足的医療保険から一定の給付が行われる。補足的医療保険への加入は任意であるが、大半の者が加入しており、低所得等による未加入者への支援も改良が重ねられ、フランスの医療保障制度において必要不可欠な存在となっている。(1)社会保障制度の基本構造京都大学教授稲森 公嘉Inamori KimiyoshiⅠ. 公的医療保障制度における薬剤給付のしくみ1. 普遍的医療保護制度(PUMa)における薬剤給付特集:薬局・薬剤師に求められる役割フランスにおける薬局・薬剤師の状況
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