健保連海外医療保障_No.130_2022年9月
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73健保連海外医療保障 No.130ように、健康検診による医療費抑制への効果に関しては一定の効果がみられることが報告されている。以上、本稿においては、韓国における健康検診の歴史的展開とその仕組みそして内容について検討を行った。そのうえで、現状および成果についての若干の評価を行い、課題とその課題の解決に向けての取組みについても紹介した。韓国の健康検診に対して何より注目されるのは、「他の先進国では類例のみない包括的な健康検診システム」(チョ・ビリョン/イ・チョルミン 2011:667)と評価されるように、乳幼児・学生・成人・高齢者といったすべての生涯周期別に合わせた体系的な仕組みをもって、全国民を対象とした健康検診が実施されていることであろう。それとともに、健康検診の医学的および経済的効果を向上させるためのさまざまな取組みが積極的に行われており、それが一定の成果を上げていることも評価されている。周知の通り、日本の健診・検診事業は、複数の関連法によって成り立っており、対象者の属性によって実施主体や費用負担などが異なる複雑な構成をとっている。この点、Ⅱ.で検討したように、韓国の健康検診も同様である。ここで、詳細な内容を比較分析する余裕はないが、その意味において、複雑な構成ゆえに日本の健診・検診事業の運営や管理にみられる問題を韓国も抱えていることになる。ただし、韓国が日本と異なる点は、医療保障制度そのものが、国民健康保険という一元化した制度によって皆保険体制を構築していることであり、単一保険者としての国民健康保険公団が、医療保障制度に関してはもちろん、健康検診の全体的な運営と管理においても中心的な役割を果たしていることである。実際に、2000年代に入ってからの健康検診の体系的な仕組みづくりにおいて、国民健康保険公団のイニシアティブは大きかったことはすでに述べた通りである。その後の運営をみても、受診率の引き上げや検診の適切性や効率性の向上および事後管理を含めた検診結果の有効な活用などのためのさまざまな取り組みにおいて国民健康保険公団の果たす役割は大きい。これと関連して、韓国の健康検診において、かねてから重要な課題として指摘されている長期未受診者問題への対応について簡単に取り上げてみたい。韓国では、低所得層で長期未受診者の割合が高いことがしばしば問題とされる。たとえば、国民健康保険加入者と医療給付受給者の間でみると医療給付受給者において長期未受診者が圧倒的に多い5)。すでに紹介したように、韓国の場合、国民健康保険加入者に対する健康検診は、国民健康保険公団で実施し、医療給付受給者に対する健康検診は各自治体で実施している。実施主体は異なっているものの、自治体による健康検診が、国民健康保険公団に委託して運営されているがゆえに、対象者管理や検査結果などの情報を国民健康保険公団で統合管理する仕組みとなっている6)。そのため、長期未受検者問題を含めて、健康検診の受検率の引き上げのための国民健康保険公団の取り組み――たとえば、訪問や郵便、電話またメールやSNSなどの手段による健康検診の案内や督促――が、国民健康保険加入者か医療給付受給者かを問わずすべての国民に向けられている。長期未受診者の管理だけでなく、健康検診の全体的な運営において、すべての国民に対する包括的な健康検診の運営および管理が、国民健康保険公団によって試みられている。この点が、同じく複雑な構成をとっていながらも、日本と異なる韓国の健康検診にみられる大きな特徴であるといえよう。もちろん、韓国の国家健康検診には依然として課題が多い(イ・ウォンチョル/イ・スンヨン 2010;チョ・ビリョン/イ・チョルミン 2011;保健社会研究院 2019;キム・テウン 2021など)。先述の受診率の引き上げだけでなく、健康検診の結果に関する事後管理の徹底、健康検診項目の改善、検診機関に対する適切なⅣ.まとめと示唆

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