57健保連海外医療保障 No.130(3) 国家健康検診の体系的整備:1990年代末以降(1)健康検診の始まり:1950年代〜70年代半ば1950年に韓国で初めて、結核と寄生虫疾患を対象に集団検査が行われた。これを韓国における健康検診の嚆矢とみる見解もある。しかしそれは、大韓結核協会と寄生虫協会といった民間機関によって実施された事業であり、法律にもとづいて制度化された健康検診ではなかった。国家による制度化された健康検診の実施は、1951年に「学校身体検査規定」の制定にもとづいて学生を対象に行われた「体格・体質・体能検査」が最初であった。これが、現在にも行われている学生健康検診の始まりである。その後、身体検査、健康相談、予防接種、結核管理、寄生虫検査など、その内容が徐々に拡充していった。一方、1953年には「勤労基準法」が制定され、労働者を対象とする健康検診がスタートした。同法によって、従業員16人以上の事業所に対して、従業員を対象とした定期的な健康検診が義務化された。この労働者の健康検診は労働部所管であった。その後、対象が徐々に拡大していき、1970年代半ばまでにはほとんどの事業所が健康検診の義務化の対象となった。(2) 国家健康検診の基礎づくり:1970年代後半〜90年代後半韓国における健康検診の歴史的展開については表2で詳しくまとめている。以下、いくつかの時期区分にもとづいて、その展開過程の主要な内容を簡単に紹介したい。1979年には公務員および私立学校教職員を対象とした医療保険がスタートした(1977年法制定)。その翌年の1980年からは、公務員と私立学校教職員を対象とした健康検診が始まった。これが、国家財政で実施された最初の健康検診である。医療保険管理公団(現・国民健康保険公団)が検診費用を負担し、全国規模の健康検診が実施されたことで、この公務員および私立学校教職員健康検診が韓国における「国家健康検診」の始まりとされることが多い(チョ・ビリョン/イ・チョルミン 2011:667)。一方、高齢者に対しては、1983年に「老人福祉法」(1981年制定および施行)にもとづいて「高齢者健康検診」が実施されることとなった。1990年代に入ると、国家健康検診に関する法的根拠にいくつかの変化がみられた。1990年に労働者を対象とする健康検診の根拠が「勤労基準法」から「産業安全保健法」へと変更された。1995年には、「医療保険法」(現・「国民健康保険法」)に健康検診の規定が新設され、同法にもとづいて健康検診を実施した場合、「産業安全保健法」による健康検診を実施したと見なすこととなった。これにより実質上、労働者を対象とする健康検診が、従来の労働部から保健福祉部に移管されることとなった。そして同年、医療保険の職域加入者だけでなく、地域加入者も健康検診の対象となった。これをもって、保健福祉部による全国民を対象とした国家健康検診の基盤ができあがったとされる(キム・テウン 2021:5;イ・ウォンチョル/イ・スンヨン 2010:366)。ただしこの時期まで、健康保険の加入者ではない者は健康検診の対象にはならなかった。1990年代後半までの健康検診に対しては、明確な概念や目標の不在また体系的な評価基準の欠如といった問題が専門家から指摘され、対象者からも健康検診の質や結果に対する疑問の声も上がっていた(イ・ウォンチョル/イ・スンヨン 2010:366)。また、医療給付の受給者など健康検診の対象から漏れている人々も少なくなかった。そういった状況をふまえて、1990年代末以降は、「健康検診実施基準」の制定(1999年)、「国家がん早期検診」の実施(1999年)、健康保険加入者に対する乳幼児(0〜5歳)の健康検診および生涯転換期(40歳と66歳)の健康検診のⅡ. 国家健康検診の歴史的展開と内容1. これまでの経緯
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