3健保連海外医療保障 No.130(1)給付の目的(2)給付の種類保険法の規定を指す。)14)、疾病金庫の任務として健康増進および病気予防が定められた。21世紀に入って社会の高齢化が進んだ結果、慢性進行性疾患への対策が重要性を増し、人生観の変化、医療の地域格差等を背景として、健康増進の強化・病気予防への関心が一層高まった15)。病気予防を強化するための病気予防法(Präventionsgesetz)制定の試みは2005年、2008年、2013年と断続的にあったが、関係者の協力の欠如、予算の不足等を理由として成功しなかった。このような経緯を反省して、全ての関係団体の意見を取り込み、2015年にようやく病気予防法16)が成立し、施行された。病気予防法は、公的医療保険法等を改正する法律で、国家病気予防会議(Nationale Präventionskonferenz)の設置や国家病気予防戦略の策定等が定められ、1次予防に様々な団体(公的医療保険、社会的介護保険、公的労災保険、公的年金保険、民間医療保険、連邦、州、自治体等)が関与する枠組みが創設された17)。また、保育園や学校等における健康増進措置の助成制度の導入、事業者における健康増進措置の改善等が行われたほか、病気の早期発見のみを目的としていた健診(2次予防)において健康上のリスクや負担の把握および評価といった1次予防としての措置も行われることが定められた18)。本節では、2015年の病気予防法の施行を経て、現在の病気予防および健康増進のための給付がどのような体系となっているかを紹介する。参考に、2020年のドイツにおける死因は、循環器疾患が34.3%、がんが23.5%、呼吸器疾患が6.2%、精神疾患が6.0%、消化器系疾患が4.3%、COVID-19が4.0%等であった19)。病気予防および健康増進のための給付は、病気を阻止および回避し、ならびに被保険者が自立して健康を志向した生活を送ることができるようにすることを目的とする。よって、給付は病気になる前の健常者を対象とする。ドイツにおいては、病気予防と健康増進が一体として取り扱われているが、これは、病気予防のためには、健康上のリスク(運動不足や喫煙等)を減らすとともに、そのようなリスクを回避し、克服する健康増進の機会(教育や余暇等)を増やすことが必要であるからとされている20)。公的医療保険法が定める病気予防および健康増進のための給付は、公的医療保険からの医療給付を減らすことにつなげるものである。また、当該給付は、健康に関する機会を平等なものとし、健康のための適切な生活習慣は若いうちに身に付けることがよいことから、児童・青少年の特別な利益を考慮するものとされている。公的医療保険中央連合会は、疾病金庫間の給付の格差が大きくならないように、医師、産業医、看護師、栄養士等の専門家の関与を得て、病気予防および健康増進のための給付の要件21)を定めている。その際には、国家労働安全衛生会議が定める労働安全衛生上の目標のほか、以下の健康上の目標が考慮される。① 2型糖尿病のリスクを引き下げ、患者を早期に発見し、治療すること。② 乳がんの死亡率を引き下げ、QOLを高めること。③ たばこの消費量を減らすこと。④ 健康に成長するための生きる能力を高め、運動や栄養に注意を向けること。⑤ 健康上の能力を高め、患者の主権を強化すること。⑥ うつ病を阻止し、早期に発見し、継続的に治療すること。⑦ 年齢を重ねても健康を維持すること。⑧ アルコールの消費量を減らすこと。病気予防および健康増進のための給付は、1)生活習慣病の予防(verhaltensbezogene Prävention)のための給付、2)社会的な生活2. 病気予防および健康増進のための給付(第20条第1項〜第4項)
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