55健保連海外医療保障 No.130韓国において国民を対象とする健康検診の実施は1950年代初頭まで■るが、それが本格的に展開されるのは1970年代後半における医療保険の導入以降である。その後、医療保険を含む医療保障制度の発展にしたがい、健康検診の対象者とその内容も順調に拡大および拡充していった。2012年には制度上、すべての国民を対象とした健康検診が実施されることとなった。現在、韓国では「国家健康検診」という名の下で、すべての国民に対して「健康危険要因と疾病を早期に発見し治療を受けることによって、人間らしい生活が保障され健康な生活を営むこと」(「健康検診基本法」第2条)ができるように支援することを目的として、乳幼児1)・学生・成人・高齢者という生涯周期別の健康検診を実施している。成人と高齢者を対象とする健康検診には、一般健康検診に加えてがん検診が含まれている。なお、2009年には「健康検診基本法」が制定された。法制定以降、2011年から5年ごとに「健康検診総合計画」が策定され、検診結果の有効な活用やその医学的および経済的効果に関する評価基準の設定など、健康検診の目標を達成するための政策的努力が以前より増して積極的に行われるようになっている。 本稿では、韓国における健康検診の歴史的展開と内容および現状を検討し、その問題点と課題そして示唆についての考察を行いたい。まず、健康検診に関する検討に入る前に、その運営の基盤となる医療保障制度の概要にふれる(Ⅰ.)。つぎに、健康検診の沿革と現行制度の仕組みや具体的な内容を検討したうえで(Ⅱ.)、さらに、健康検診の実績およびその成果を紹介する(Ⅲ.)、最後に、健康検診の課題とともに今後の展望および示唆について述べる(Ⅳ.)。 健康検診に関する検討に入る前に、ここでは、韓国における医療保障制度の歴史的展開と現状を簡単に紹介しておきたい(金 2021:55-57)。韓国における医療保険の最初の導入は、1963年の「医療保険法」の制定まで■る。ただし当時は、任意加入を原則としていたため加入者は極めて少なかった。その後、1970年に、労働者や公務員および軍人に対して医療保険を強制適用するよう法改正が行われたが、財政上の問題などのため実施は保留となった。1976年には再度法改正が行われ、500人以上の事業所に雇用されている者が強制加入となった。これによっ東京大学大学院人文社会系研究科准教授金 成垣Kim Sung-wonⅠ. 医療保障制度の概要1. 歴史的展開特集:諸外国における健診・検診について韓国の国家健康検診―歴史、仕組みと現状、課題
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