注1) 薬剤費として処方1件につき定額の患者負担や、歯科サービス、眼鏡サービスにも患者負担が存在する。ただし、低所得者などを中心に患者負担の減免制度が存在し、薬剤費に関しては全体の80%で患者負担が免除されている。51健保連海外医療保障 No.130を保つべく、費用対効果やエビデンスに基づいた医療のガイドラインを設定している。そうしたガイドラインの策定などはNational Institute for Health and Care Excellence(国立医療技術評価機構。以下NICE)が果たしている。NICEは根拠に基づき、費用対効果の高い医療の指針を作成し、普及させることを目的とし、薬剤、医療機器、診断技術などの新たな製品について臨床上の効果や費用対効果を検討し、治療法や検診などに関して指針を作成する。NICE が行う新薬などの評価や、作成された診療ガイドラインは、国の政策として位置づけられる。NICEは医療サービスの効用や安全性に加え、費用対効果の観点から経済性も評価し、医療技術や医薬品の推奨・非推奨が勧告される。NHS Health Checkの受診開始年齢と受診頻度も、NICEの評価基準も反映された分析に基づいて決定された。Department of Health(2008a)では、費用対効果の分析に基づき、受診開始年齢と受診頻度について6種類のシナリオを導いて、それぞれの効果を分析している32)。6つのシナリオとは、①40歳から5年ごとに受診、②40歳から10年ごとに受診、③45歳から5年ごとに受診、④45歳から10年ごとに受診、⑤50歳から5年ごとに受診、⑥50歳から10年ごとに受診、である。その6つのシナリオでは、QALY33)(Quality Adjusted Life Year=質調整生存年)とICER34)(Incremental Cost Effectiveness Ratio=増分費用効果比)がモデルに基づいて推計され、40歳から5年ごとの受診をすることが費用対効果において最適であると結論づけている。日本では、毎年特定健診や一般健康診断を行っているが、その頻度で健康診断を行うことが最適である、という根拠があるのかを検証する必要があるのではないであろうか。確かに毎年健康診断を受診することで、イギリスと比べてより頻繁に健康状態をチェックできる。しかし、頻繁に健康状態をチェックすること自体が望ましいのであれば、半年に1度、四半期に1度など、さらに頻繁に受診することが推奨されてしかるべきであろう。それをしないのは、費用や時間、効果などの面で適切ではないと判断されているからであろうが、そこに客観的な根拠が見えていない。したがって、健康診断の受診頻度については、毎年行うことが費用対効果の面からも最適であることを示す必要がある。ただし、Department of Health (2008a)においても費用対効果のモデルで示された受診頻度は、5年か10年かの2パターンしかなく、それに受診開始年齢を組み合わせて導いたものである。それら以外の受診頻度がより最適である、ということは示されていない。しかしながら、日本においても健康診断の費用対効果について、毎年受診と2年に1度の受診など頻度を変えた場合の効果を推計するなどし、経済的な面も考え、「最高」というよりも「最適」な水準の受診頻度はどの程度かということについて検証すべきであろう。医療保険者や企業の財政が厳しさを増す中、疾病治療に適正水準の医療サービス提供を行うことが望ましいのと同様に、健康診断などの予防事業についても最適水準を推計し実行することを考える時期にあるのではないだろうか。2) 『ベヴァリッジ報告』で述べられている「3つの仕組み」の残りの2つは、児童手当と雇用の維持である。これら3つの政策を前提としたうえで、所得維持によって欠乏から自由を勝ち取れる社会保障制度を計画できると述べている。3) 一圓(2014)pp.247〜249参照。4) これらの既往症がある人々は正規の診断の中で検査を受け、症状に関するより詳しい情報を医師等から提供される。5) NHSウェブサイト「NHS Health Check」参照。6) 心臓年齢はNHS ウェブサイト「Whatʼs your heart age?」、BMIの計測はNHSウェブサイト
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