健保連海外医療保障_No.130_2022年9月
53/80

健保連海外医療保障 No.13050諸外国における健診・検診についてICSsは、GPや地方自治体、各地域の医療機関が地域住民の医療や介護のニーズを満たすために、高度な連携を行えるようするシステムである31)。この一次医療と二次医療、医療とソーシャルケアの切れ目のない連携、といった統合的な医療サービス提供を行うシステムは、当初各地域のSustainability and Transformation Partnerships(以下STPs)を通じて整備されていた。STPsは2016年度からの5年間の計画で実施され、何度かの改変を経て、STPsを元にしたICSsが構築されていった。ICSsでは、今まで以上に地域内の医療サービスとソーシャルケア、自治体の連携・調整を進めることを盛り込み、一次医療、病院、ソーシャルケアだけでなく、ボランティアや地域社会とも提携を深め、異なるサービス間での境界をなくし、サービス提供の連携を図る体制を作りあげた。そして、2022年7月に施行されたHealth and Care Act 2022(2022年医療およびケア法)によって、正式にICSsが設立した。ICSsがSCRに登録されている患者の医療情報を活用することで、より強く密な連携をもって、患者個人の特徴にあった健康管理や医療介入を行うことができやすくなるものと考えられている。これまでは、学校やプライマリケア、地域によるコミュニティケアなどで個別に機能していた医療サービス、健康診断・検診事業であるが、連携がしやすい仕組みが構築されつつある今、患者のデータや情報も共有しやすくなったことで、様々な医療に関するデータも蓄積されていくことが予測できる。デジタル化が進められる中で、豊富なデータを元に分析も進められていくようになれば、さらに費用対効果の高い効率的な健康診断・検診事業が実施される可能性もある。これらはまだ2022年7月に開始されたばかりのシステムであるため、今後の動きを注視すべきであろう。NHS Health Checkは2009年から実施されたが、日本においても同時期の2008年4月に特定健診・特定保健指導が始まっており、対象者も40〜74歳とイギリスと同じ年齢層になっている。健康診断が対象としている疾患も、両国とも生活習慣病を中心としたものであるため、行われる検査も似通ったものが多い。ここで、検査の差異に注目してみる。日本の特定健診で行われている尿検査はイギリスで行われておらず、胸部レントゲン検査や心電図は、特定健診では特定の場合に実施されることとなっている(一般健康診断では検査項目にある)が、イギリスでは胸部レントゲン検査は今後導入が検討されている段階である。そういった面では、日本の方が多様な側面から検査が行われているといえよう。受診の仕方については、イギリスでは個人で予約を取って受診することとなっている。日本の特定健診は医療保険者に実施義務が課せられ、一般健康診断は事業者に実施義務が課せられており、地域や職場単位で受診場所が設定されるため、職場単位でも受診ができる点で、イギリスとは実施体制が異なる。この違いは医療保障制度の違いに起因するものであろう。全国民がGPを登録しているイギリスでは、国民の健康管理を主にGPが行うため、健康診断の受診もGPで行うことが多い。日本は全国民が地域・職域の医療保険に加入しているため、医療保険者や事業者が職場や地域単位で健康診断を受診する機会を設けやすくなっている。しかし、最も大きな違いは受診の頻度ではなかろうか。日本では特定健診・特定保健指導や一般健康診断は毎年実施され受診することになっているが、イギリスでは受診の機会が5年に1度となっている。5年に1度以外の年で健康診断を受けたければ、有料で受診しなければならない。確かに高い頻度で健康診断を受診すれば、それだけ病気を見つけやすくなるであろう。しかし、費用対効果の面でそれは適切であるのだろうか。イギリスはNHSの財源の大半を税で賄っているため、NHSが提供する医療サービスの質Ⅴ. まとめおよび日本への示唆

元のページ  ../index.html#53

このブックを見る