健保連海外医療保障_No.130_2022年9月
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49健保連海外医療保障 No.130て生じるデメリットなどを公開することで、人々に検診を受診してもらう取り組みなどを紹介している。しかしながら、受診率向上の決定打となっている策はなく、受診するつもりのない人々にどのように受診させるよう仕向けるかが、今後の課題である。労働党から保守党と自由党の連立政権に政権が交代した2010年以降、緊縮財政によりNHSの予算は抑えられてきた。そのため、提供される医療サービスは深刻な状況となり、医療機関の財政状況悪化、医療従事者の欠員問題が生じていた。これらの問題を改善すべく、2019年度から2023年度までの5年間、NHSイングランドへの予算を年平均3.4%増額することとなった。こうして増額された予算を元に行うべき計画を策定したものが、「The NHS Long Term Plan(NHSにおける長期計画)」である。その改革方針は多方面にわたっているが、主なものとしてケアの統合、先を見越した医療サービス(予防)、個別化した健康管理などがあげられる。その中の2章および3章で疾病予防と検診について触れられている。そこでは、2019年当時テストケースとして行われていた肺の健康診断について、効果的な結果が得られたため全国的な拡大を目指すこと、大腸がん検診については、それまで60〜74歳だった対象者を50〜74歳とすることなど、医学的根拠を踏まえて、現代化していくことが示されている。また心血管疾患について、NHS Health Checkなどで高リスク者であると判断された場合には、速やかに治療につなげていく体制を整えることなども示されている27)。つまり、検査や治療を効率的に行うべく、データに基づいて分析した結果、リスクが高いと考えられる集団にターゲットをしぼり、効果的な検診につなげる予防事業体制の構築を目指している。ただし、この中で主たる役割を果たす組織の一つとして挙げられていたPublic Health Englandは2021年に解体された。Public Health Englandは保健省の機関の1つであり、研究活動、公衆衛生活動、生活習慣や社会格差などに加え、疾病の検査などにも対応していた。解体後、その役割は公式にUK Health Security AgencyとOffice for Health Improvement and Disparitiesに引き継がれ、健康改善の役割はOffice for Health Improvement and Disparitiesが果たすこととなった。またThe NHS Long Term Planの5章では、NHSのデジタル化を進めることに触れている。患者情報をデジタル化し、医療従事者がどこでも閲覧可能にすることや、それを元に患者の治療やケアの管理を行うこと、AIの活用といった改革について、1年単位で達成目標を定め、計画的にデジタル化を進めることが示されている28)。こうしたデジタル化によって、患者の健康状態や治療歴などをどの医療機関からも閲覧できるようにし、切れ目のない継続した治療やケアを行えるようにする改革が推し進められている。この点については次項で触れる。現在NHSでは大規模な組織改革が推し進められているところである29)。それと同時に、患者の基本的な診療情報が登録されているGPのデータを、Summary Care Record(以下SCR)を通じて他の医療機関と共有する改革も進められている30)。SCRにある患者の電子記録は、許可を受けた医療従事者や介護スタッフ、地域薬局で閲覧することが可能である。患者情報については、患者自身が拒否をしない限り、自動的に登録されていく仕組みとなっている。ここで保管されている患者の基本情報の一例としては、住所・年齢・NHS番号から、現在の投薬、アレルギーや薬への副作用がある。今後、それらに追加されていく情報もあると言われている。こうした情報は、Integrated Care Systems (以下ICSs)が率先して活用することとなる。2. 2022年度に実施される改革Ⅳ. 今後の展開1. The NHS Long Term Planによる改革方針

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