健保連海外医療保障_No.130_2022年9月
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健保連海外医療保障 No.1302諸外国における健診・検診についてして、加入する疾病金庫を自由に選択することができる。公的医療保険の給付の種類としては、主に、①病気予防(Prävention)(1次予防)および健康増進(Gesundheitsförderung)のための給付、②病気のリスクの把握および早期発見(2次予防)のための給付、③病気の場合の給付がある。本稿で扱う健診・検診は、②の範疇に入る。被保険者は、入院費の一部(10ユーロ/1日、かつ28日/年まで)や薬剤費の一部(1割、かつ5ユーロ以上10ユーロ未満/1パッケージ(Packung))を負担するが、外来診療は自己負担なしで受けることができる5)。上記の給付を支える公的医療保険の財源は、①保険料(2021年現在の料率は14.6%。労使折半)と②連邦からの補助金である。連邦補助金は妊娠・母性給付等の「保険になじまない給付」のために使用される6)。①および②の資金は、連邦保険庁に設けられた医療基金(Gesundheitsfonds)に拠出される(連邦補助金が、医療基金の収入に占める割合は6%前後である7))。さらに、医療基金から、各疾病金庫に対し、その被保険者数を基に、年齢、病気等が考慮された上で資金が配分される。配分された資金により必要な費用を賄うことができない場合には、疾病金庫は追加保険料を被保険者ごとに徴収することができる。追加保険料の負担も労使折半であるが、料率は疾病金庫ごとに異なる(2022年の追加保険料の平均料率は1.3%8))。ドイツの医療制度においては、入院患者を担当する総合病院(Krankenhaus, Klinik)と外来患者を担当する家庭医(Hausarzt)または専門医(Facharzt)――すなわち開業医(Niederlassungsarzt)――の診療所(Praxis)が明確に区分されている。家庭医は、一般医学、内科または小児科の専門医であり、住民に身近な存在で、健康管理や健診等も行う9)。専門医は、眼科、耳鼻科、皮膚科、産婦人科等の開業医である10)。保険診療を行う許可を得た開業医を、「契約医(Vertragsarzt)」または「保険医(Kassenarzt)」ともいう。公的医療保険は「自治の原則」により運営されており、具体的な医療の在り方は、当事者が決めている。医療に係る自治組織として、保険医協会、歯科保険医協会、疾病金庫連合会および病院協会がある。その各々は各州に存在し、連邦レベルの上部団体として、連邦保険医協会(Kassenärztliche Bundesvereinigung)、連邦歯科保険医協会(Kassenzahnärztliche Bundesvereinigung)、公的医療保険中央連合会(GKV-Spitzenverband)およびドイツ病院協会(Deutsche Krankenhausgesellschaft)がある。これら連邦レベルの4団体は、さらに、連邦共同委員会(Gemeinsamer Bundesausschuss)を構成する。連邦共同委員会は、公的医療保険が費用を負担する給付の内容を審議し、十分で合目的的かつ経済的な医療を保障するために必要な指針(例:医療の質の確保に関する指針等)を策定する。これらの指針は、被保険者、疾病金庫、医師等を拘束する11)。公的医療保険において、病気予防が重視され始めたのは比較的最近のことである。戦後、医療保険については、帝国時代の国家保険法13)(うち公的医療保険の部分)が引き続き適用されていた。後継の法律である公的医療保険法は1988年に制定され、1989年から施行されている。このときに、循環器疾患やがんのような現代病には治療のみでなく予防が重要であることが認識されてきたことを背景として、健康増進および病気予防に関する規定が同法に新たに設けられ(第3章第3節。以下に掲げる条項は公的医療Ⅲ. 病気予防(1次予防)および健康増進健診・検診は、病気予防(1次予防)および健康増進のための給付と関連が深いため12)、最初に本章で、病気予防および健康増進のための給付の枠組みを紹介した後、次章以降で、健診・検診の概要を紹介する。1. 経緯

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