健保連海外医療保障_No.130_2022年9月
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健保連海外医療保障 No.13046(2) NHS Next Stage Review final reportに基づく改革諸外国における健診・検診について間のさらなる短縮、患者に病院の選択権を付与するなど患者の権利強化に加え、医療の質に基づく診療報酬制度の導入などがあげられている。その中では2010年までに、75歳以下の冠動脈心疾患と脳卒中による死亡率を1997年度比で40%減少させること、がんによる死亡率を1997年度比で20%減少させることなども掲げられていた。このNHS Planの第2段階は、「改革の導入」と位置付けられている16)。ここまでの改革においても、冠動脈心疾患・脳卒中・がんの死亡率を下げることが目標としてあげられていた。The NHS Improvement Planでは、そうした疾患を予防することで目標達成に近づけるとし、検診事業の実施が定められた。そして、2008年までに予防政策にさらなる投資を行うことが明記されている。以上の2段階を受けて、NHS Planによる10か年計画の改革の第3段階目を迎えることとなる。90年代後半までのNHSは、上述したように患者の満足度が低かった。そのため、NHS Planによる改革は当初、医療に関する予算を増大させ、医療従事者数の拡充、医師への診療報酬に成果報酬を取り入れるなど、医療資源の充実に力を入れ患者が必要とする医療サービスを提供できる体制づくりに注力していた。そうした改革により達成された医療環境を活用することで、健康診断など予防医療にも力をいれられるベースができあがっていったといえる。次項では第3段階の改革の中でも、疾病予防に焦点をあてる。NHS Plan第3段階目の改革の基本方針となったのは、保健大臣ダージー■による最終報告書「High quality care for all: NHS Next Stage Review final report(すべての人に良質な医療を:NHSの新たな段階)」である。これは、NHS誕生60周年となる2008年に発表された17)。高名な外科医でもあったダージー■は、さらなる10年間のNHS改革の方向性もこの報告書で示している。そこでは、医師のみならず看護師などの医療従事者も制度改革を担うべきであり、医療従事者にはより大きな自由が与えられる必要があると考え、患者のニーズに合うような質の高い医療が提供されるNHSのあり方を提案している。そして、①fair(公平性)②personalised(個々の患者に合わせたサービス)③effective(効果的)④safe(安全性)⑤locally accountable(地域ごとの説明責任)の5点がNHSの方針として強調されていた18)。この報告書では、個々の患者に合わせ、効果的かつ安全に医療サービスを提供するためには、疾病予防が重要となることが示されている19)。適切な予防サービスを整備することは、特に低所得者の寿命の短さや高い罹患率といった、健康・医療の不平等を是正する中心的な役割を果たすものと位置づけている。それゆえ、人々が受けやすい予防医療を保障することが重要であるとし、健康診断や検診を効果的に行うシステムを構築することの必要性を示している。中でも、とりわけ血管系疾患に着目している。その理由は、血管系疾患20)が短命や長期間の疾患、医療の不平等の主たる原因となっているからである。当時のイングランドでは、血管系疾患に罹患している人が450万人おり、毎年17万人が亡くなっていた。そうした状況を踏まえ、血管系疾患を中心とした、40〜74歳を対象とする健康診断を2009年から導入することを提案した。これがNHS Health Checkとなる。この報告書では、2012年までに毎年300万人の受診者を見込んでいた。また、最低でも毎年9,500の心疾患と脳卒中、4,000人の糖尿病患者の病状進行を防ぐことを目的としていた。こうした健康診断を受けやすくするべく、様々な場所で受診できるようにし、特に薬局がこの健康診断を提供する■となる役割を果たすことが、この時点で述べられている。これを達成するために、健康診断事業を開始すると同時に、この事業を国民に広めるべく「Reduce Your Risk(リスクを減らそう)」というキャンペーンを展開することを提案している。このキャンペーンでは、「禁煙、適正体重の管理、

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