45健保連海外医療保障 No.130Improvement Planに基づく改革する調査、言語やコミュニケーションに対して適切な教育や医療を提供することなどがある。検診は小中学校においては視力検査、中学校ではクラミジア検査がある。予防接種は適切な年齢における、BCG、B型肝炎ウイルス、HPV、破傷風・ジフテリア・ポリオのワクチンなどの接種が行われる。こうした健康診断などから得られた情報はNHSと連携してデータの収集を行っている。このHCPは2009年から導入されているため、現代化すべく今後数年の内に改革が行われる予定になっている。2019年に出された「The NHS Long Term Plan(NHSの長期計画)」でもHCPの改革について触れられており12)、現代のエビデンスや事情に基づいた改善を行う必要があると述べている。現代化の1つの案として、これまでの19歳までであったHCPの年齢を24歳まで拡大することが挙げられている13)。イギリスでは、日本のように職場単位での健康診断が行われるようなことはなくNHS Health Checkの受診も個人の意思を尊重する形で、個人単位で行われている。NHS Screening Programmeにおいても、受診するか否かは個人の権利であることが明示され、ウェブサイトの動画などでも繰り返し説明されている。しかしながら、適切な時期に必要な疾患の検診案内が来たにもかかわらず、受診をしていない場合、再度案内が来ることもあり、可能な限り受診するよう促す取り組みも行われている。この章では、NHSでこうした形のNHS Health CheckおよびNHS Screening Programmeが実施されるに至った経緯について説明する。労働党が政権を取った1997年のNHSの満足度は過去最低の34%を記録し、不満が50%となり、その差が最も大きくなっていた14)。その後、政府は1999年に白書として「Saving Lives: Our Healthier Nation(命を救う:より健康な国家を目指して)」を発表し、イギリス国民の健康維持政策を発表し、国民の冠動脈心疾患や脳卒中の罹患率および死亡率を減らすことなどの目標を定め、国民間の罹患率や死亡率の格差是正、健康状態を同レベルにすることを2010年までの達成目標としていた。さらに、2000年には「The NHS Plan:a Plan for investment, a Plan for reform(NHSプラン:投資の計画および改革の計画)」(以下NHS Plan)、という10か年計画が発表された。この計画では、21世紀にふさわしい保健医療サービスを提供すべく、医療従事者不足や財源不足解消のため、NHS予算を大幅に拡大することが明記されていた。当時ヨーロッパ諸国と比べて低い水準であった医療費(対GDP比で6%台)を、ヨーロッパ諸国の平均レベルである、対GDP比で9%程度にまで引き上げることを目標とし、実質年率7.4%の引き上げを行うこととしていた。そのため、国民保険の保険料率を1%引き上げるといった改革も実行もされた。この国民保険とは、原則として16歳以上の国民が被保険者となり、被保険者は所得に応じた保険料の拠出が義務付けられているイギリスの社会保険制度である15)。これらの改革では、待機期間の短縮や病院の増設などにも具体的な数値目標を定めていた。国民に対しては、自身の健康管理に対してさらなる関心をもつことや、疾病予防のための検診により取り組んでいくことなども示されていた。こうしたNHS史上最大規模の投資ともいえる予算拡充により、医師・看護師・医療設備などの規模を拡大することは、NHS Planの第1段階として位置づけられる。第2段階は、2004年に出された「The NHS Improvement Plan:Putting People at the Heart of Public Services(NHS 改善計画:人を公的サービスの中心に)」において、待機期Ⅲ. 健康診断および検診の背景と効果1. NHS Health CheckならびにNHS Screening Programme実施の背景(1) The NHS PlanおよびThe NHS
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