健保連海外医療保障 No.13042(2)健康診断の内容諸外国における健診・検診について間に早期診断とその治療に協力する義務を認識すべき、と述べている3)。このように70年以上前から、「疾病予防」を行うために国民が果たすべきことが掲げられていたのである。本稿では、イギリスにおける健康診断および検診の現状を概観していく。NHS主体で行われている健康診断であるNHS Health Checkおよび、検診にあたるNHS Screening Programmeについて説明し、それらが実施されるに至った背景やその効果を確認する。そして、近年のNHS改革の状況と今後の展開をふまえ、日本に何らかの示唆となりうるものがないか、分析する。NHS Health Checkは2009年より導入された、成人を対象とした健康診断である。対象は40歳から74歳までの者である。ただし、心臓病、腎臓病、糖尿病、高血圧、心房細動、一過性脳虚血発作、家族性高コレステロール血症、心不全、末梢動脈疾患、脳卒中、現在コレステロールを下げるスタチンを服用中の者、これまでに受診したNHS Health Checkにおいて、10 年後の心血管疾患のリスクが20%以上あった者については対象外となっている4)。NHS Health Checkの目的は主として生活習慣病のリスクを早期に発見し、治療へとつなげるものである。具体的には、心臓や循環器系の疾患(心疾患、脳卒中、高血圧、2型糖尿病、腎臓病など)を引き起こす心血管疾患のリスクチェックといった、日本の特定健診・特定保健指導のターゲットと同様のものに加え、認知症のリスクを軽減する内容も含まれている。40〜74歳の人々には、5年に1度自身が登録しているGP診療所もしくは自身の居住する地域の協議会(NHS Health Checkの運営主体の1つ)から、NHS Health Checkの受診案内が送られてくる。それを受け取った者は、自身のGP診療所でNHS Health Checkの予約を行い、健康診断を受診することができる。また、地域薬局においてもGP診療所と同様に、NHS Health Checkを予約・受診できる所がある。40〜74歳以外の年齢では、無料のNHS Health Checkを受けることはできない。対象外の年齢の者がNHS Health Checkと同様の健康診断を受けたい場合は、民間病院において有料で受けることは可能である。また、多くの薬局で血圧測定が行われているため、そこではNHS Health Checkの年齢に関係なく、血圧測定をしてもらうことはできる。NHS Health Checkの受診当日にかかる所要時間はおおよそ20〜30分であると言われている5)。当日の健康診断は主に看護師が担当するが、医師や薬剤師、医療助手といった医療専門職のスタッフによって行われることもある。当日は自身と家族の病歴や、喫煙の有無、飲酒習慣の有無や頻度、日々の運動量などについて簡単な問診が行われる。その後、身長・体重・腹囲の測定、血圧測定、採血が行われる。採血は健康診断の前に行われることもある。採血は指先からわずかな量の血液を採取し、コレステロールや血糖値の計測に用いられる。健康診断の際には結果に関わらず、すべての人に脳卒中、心疾患、腎臓病、糖尿病のリスクを軽減する予防法に関するアドバイスがなされる。65歳以上の者には、認知症の兆候などを発見するアドバイスも行われる。健康診断の結果に応じて、食生活の改善や運動量に対する指導、血圧やコレステロール値を下げる方法、減量や禁煙の指導などがなされる。健康診断後には、上述した医療専門職のスタッフにより、心血管疾患のリスクについて3段階のどれにあたるかが示される。3段階の指標は以下の通りである。・低い…… 今後10年間に心血管疾患にかかる可能性が10%未満Ⅱ. NHSおよび地方による健康診断・検診事業1. NHS Health Check(健康診断)(1)概要
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