健保連海外医療保障_No.130_2022年9月
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41健保連海外医療保障 No.130日本と大きく異なる財源調達方式で医療保障制度を実施しているイギリスであるが、その健康診断・検診といった予防事業は、どうであろうか。健康診断や検診は自覚症状がないような早期の状態の疾病を発見することができ、重症化する前に治療を行う機会につながる。これは患者の治療時の負担を軽減するだけでなく、医療支出の抑制にもつながる。 本稿では、イギリスの健康診断・検診事業の内容がどのようなものであるのか、現状および導入の背景、今後の展開について述べる。最後に日本との比較を簡単に行い、健康診断・検診といった予防事業のあり方を考えるきっかけとしたい。イギリスは医療サービスの供給を国家の責任によって行うため、費用の大部分を国の一般財源で賄い、全ての国民に対して医療サービスを原則無料1)で提供している。また一次医療と二次医療が明確に分けられているのも特徴の1つである。すべての国民は自身が病気などにかかった際、最初に受診するGP(=General Practitioner)と呼ばれるかかりつけ医の診療所を登録している。そしてGPの診察を受けなければ、病院で手術などの高度な治療や検査(二次医療)を受けることができない。強制的社会保険による社会保険料と国庫負担を財源とし、医療機関へのフリーアクセスが認められる形で国民に医療サービスを保障している日本とは、医療保障制度の体制が大きく異なる。イギリスの医療保障制度であるNational Health Service(以下NHS)は、1948年に誕生し、その後70年以上時代に合わせて改革は続けられているが、冒頭で述べたような基本的な特徴は維持したまま、現在に至っている。このNHSの形を決定づけたものは、1942年に発行された『ベヴァリッジ報告』であろう。『ベヴァリッジ報告』は、世界で初めて貧困をなくすことを目標にした社会保障システムを計画し、戦後のイギリスの国のあり方や社会保障の方向性を具体的に示していた。その著者であるベヴァリッジは、強制的社会保険中心の社会保障制度を目指していた。しかし、「包括的な保健およびリハビリテーションサービス」として考えられていた医療保障制度は、社会保障制度そのものの中に組み込まれておらず、社会保障制度を行うための前提となる3つの仕組みの1つとして位置付けられていた2)。つまり、国民に医療サービスを提供する制度は、他の制度よりも優先的に整備すべき制度と考えられていたといえる。この時点からイギリスが目指す医療保障制度は、誰もが必要とする医療サービスを無料で提供し、疾病の予防と治療、さらには医療後の処置である雇用に向けたリハビリテーションもその範疇に入れていた。そのため、『ベヴァリッジ報告』では個人には健康を保つ義務があることと、予防できる山口大学准教授田畑 雄紀Tabata YukiⅠ. はじめに特集:諸外国における健診・検診についてイギリスにおける健康診断・検診事業の現状と背景、今後の動向

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