注1) 償還払いの仕組みは、一時的であるにせよ、患者に対して大きな経済的な負担を強いるため、医療へのアクセスを確保する観点から改善が図られてきた。今日、第三者払い(保険者から医療提供者への直接払い)が政策的に進められてきているが、その完全な一般化は実現していない。2) 地域圏はフランスにおける上位の地方行政組織であり、13の地域圏が存在する。さらに地域圏の下には101の県(département)が存在する。3) 2021年の会計検査院の報告書でも、2009年の報告書をふまえ、一般人口に対する予防的な診察は医療経済学的な観点から効率的ではないと評価されたとの説明がなされている(Cour des comptes 2021:107-8)。37健保連海外医療保障 No.130でそれらを実施することが重視されていることである。健診・検診のあり方として、フランスでは、一定の人口に対して定期的に一律の検査を実施することよりも、かかりつけ医等による被保険者(患者)の健康状態の継続的な把握に基づき、必要な時期に必要な検査を実施することに重きが置かれていると考えられる。二つ目は、健診・検診をめぐる費用の負担において、医療保険が中心的な役割を担っていることである。日本の健診・検診における国や地方自治体の費用負担者としての役割と比較すると、フランスの地方自治体等の役割は小さい。医療保険は、健診・検診の実施のための費用だけではなく、それら促すための費用(健診センターでの情報提供・相談、がん検診の円滑な実施のためのCRCDCの運営費用など)も負担しており、財政面において決定的な役割を担っている。三つ目は、社会的弱者の予防へのアクセスを確保するという政策目標が重視されており、それが健診・検診制度にも反映されていることである。とくに、健診センターを通じた取組みや子宮頸がん検診プログラムにおいては、そのような政策的関心が色濃く表れていた。日本の健診・検診制度をこのような視点から再検討することは、制度をよりよいものにし、疾病予防を促進するためにも重要なのではないだろうか。四つ目は、疾病予防を推進する診療報酬制度によって、検診の実施が報酬面から直接的に促されていることである。かかりつけ医を対象としたROSPにおいては、がん検診の参加率を向上させるための目標とそれを達成することによるメリットが具体的に示されており、医師らが取組みやすい仕組みとなっている。診療報酬制度の柔軟な工夫によって疾病予防を促進することも、政策的な選択肢の一つとであると考える。本稿では、フランスの健診・検診の制度的な枠組みを整理するとともに、それらの現状や課題についても明らかにすることができた。また、さまざまな課題に対して、フランスがどのような政策的努力や工夫でそれらを克服しようとしているのか、おぼろげながら見えてくるものがあった。フランスの経験は、よりよい健診・検診制度の実現のためには、医療保険とかかりつけ医の役割が重要であることを示している。4) あわせて、無料の健診を他の疾病予防施策等と重複して受けることや、同じ時期に同一の健診を複数回受けることを回避するための策を講じることについても定められている。5) 社会保険制度(今日の一般制度)について定めた1945年10月19日のオルドナンスの第31条において、被保険者とその家族に対する無料の健診について今日と同様の規定が設けられている。6) アソシアシオンは、1901年7月1日法にもとづく民間の非営利組織である。文化や芸術、スポーツ等のさまざまな領域でアソシアシオンの活動が展開されており、フランス人の多くがそれらにかかわっている。保健医療の分野でもアソシアシオンの活動が積極的に展開されており、疾病予防にも寄与している。7) Cour des comptes (2009:246-7)および医療保険のウェブサイト(ameli.fr)の「Examen de prévention en santé」(https://www.ameli.fr/assure/sante/assurance-maladie/prevention-depistages/examen-prevention-sante 2022年6月19日閲覧)による。8) 勤務する人員の数は2004年には1,645名(フルタイム換算)、2007年には1,510名(同)であった(Cour des comptes 2009:250)。さらに、2014
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