健保連海外医療保障_No.130_2022年9月
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1健保連海外医療保障 No.130ドイツでは、成人の一般健診およびがん検診、ならびに乳幼児・青少年の健診が公的医療保険による全額負担で行われている。受診は任意であり、被保険者は、個別に家庭医または専門医で受診する。一般健診の公的な評価は現在のところ見当たらず、寿命を延ばす効果は明らかでないとされる。他方、乳がんのマンモグラフィ・スクリーニング、子宮頸がん検診および大腸がん検診については公的な評価が行われ、その結果をフィードバックして見直しを行う制度が、連邦共同委員会の指針において定められている。 ドイツでは、病気のリスクの把握および早期発見を目的とする健康診断(Gesundheits-untersuchungen, Check-up)(以下「健診」)、ならびにがんの早期発見を目的とする検診(Früherkennungsuntersuchungen)(以下「検診」)は、社会法典第5編1)(以下「公的医療保険法」)において定められている。健診・検診は、同法に基づき、公的医療保険の保険者である疾病金庫(Krankenkasse)の費用負担により行われる。被保険者は、健診・検診を受ける権利を有し、疾病金庫から提供される情報を基に、各自で受診するか否かを決定する。本稿では、このような健診・検診の枠組みを紹介するが、初めにその前提として、公的医療保険制度の概略(Ⅱ.)、健診・検診(2次予防)の前段階として位置付けられる病気予防(1次予防)および健康増進(Ⅲ.)について紹介する。次に、健診・検診の枠組みおよび概要(Ⅳ.)、健診・検診の受診率および評価(Ⅴ.)について紹介し、最後に、日本への示唆の観点からドイツの制度の特徴を概観する(Ⅵ.)。最初に、健診・検診の理解に資する範囲で、ドイツの公的医療保険制度の概略を紹介する。ドイツには公的医療保険(gesetzliche Krankenversicheung)と民間医療保険があり、年収が基準額(2022年現在、64,350ユーロ)以下の被用者、農業従事者、芸術家、学生、失業者、年金生活者等には、公的医療保険に加入する義務がある。公的医療保険に加入する義務のない者(年収が上記基準額を上回る被用者、公務員、自営業者等)は、任意で公的医療保険に加入するか、または民間医療保険に加入しなければならない(国民皆保険制度)2)。2019年の連邦統計庁の標本調査によれば、国民の88.2%が公的医療保険に加入し、11.2%が民間医療保険に加入している3)。公的医療保険の保険者は「疾病金庫」といい、制度を運用している。疾病金庫には、地区疾病金庫、企業疾病金庫、同業者疾病金庫、農業疾病金庫等の6種類があり、2021年現在、合わせて103の疾病金庫がある4)。対象地域や対象者が限定される疾病金庫もあるが、国民は原則と国立国会図書館調査及び立法考査局 調査企画課渡辺 富久子Watanabe FukukoⅠ. はじめに特集:諸外国における健診・検診についてドイツにおける一般健診およびがん検診Ⅱ. 公的医療保険制度の概略

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