健保連海外医療保障_No.130_2022年9月
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諸外国における健診・検診について表1  がん検診に関連したROSP(かかりつけ医)の指標て積極的な促しを行い、対象者を検診につなげることも期待されているといえる。検診とのかかわりにおいて、かかりつけ医は、制度的に展開されている検診をサポートすると同時に、それが十分に届いていない人々には個別的な促しや対応を行うという、二重の役割が期待されているといえる。ROSPによる疾病予防の促進は、注目される取組みではあるものの、今のところ、その効果は限定的であると考えられる。「予防」に関連した指標に基づくROSPの報酬は開業医の総報酬額の1.15%に過ぎず、医療実践に影響を及ぼすには規模が小さすぎるとの指摘がある(Cour des comptes 2021:76)。また、ROSPによって疾病予防を促進するためにはかかりつけ医の存在が重要となるが、この場合、かかりつけ医をもたない(もてない)人々がこの施策の対象から漏れてしまうこととなる。2020年現在、540万人(被保険者の8.6%)がかかりつけ医の届出を行っておらず、多くの場合、医療人口問題(とくに医師不足)がその理由とされている(Cour des comptes 2021:75)。これらのことから、検診の参加率を高めることができるかどうかは、かかりつけ医制度の機能や普及の程度、さらに医療提供のあり方と深くかかわっているといえる。これまで検討してきたように、フランスでは健診・検診をめぐって積極的な取組みが行われているが、一方で多くの課題があることも認識乳がんかかりつけ医が担当する50歳から74歳の患者(女性)のうち、乳がん検診(組織的あるいは個別)を受けた者の割合かかりつけ医が担当する25歳から30歳未満の患者(女性)のうち過去3年間に細胞診を受けた者と、同30歳から65歳の患者(女性)のうち過去5年間にHPV検査を受けた者の割合子宮頸がん大腸がんかかりつけ医が担当する50歳から74歳の患者(男性)のうち、過去2年間に大腸がん検査が行われた者の割合出所: 医療保険のウェブサイト(ameli.fr)の「La Rosp du médecin traitant de l'adulte」(https://www.ameli.fr/medecin/exercice-liberal/remuneration/remuneration-objectifs/medecin-traitant-adulte 2022年6月19日閲覧)より筆者作成。されている。フランスの予防政策の現状と課題を包括的に検討した2021年の会計検査院の報告書では、疾病予防をさらに推進していくために必要な14の項目が示されている(Cour des comptes 2021: 19-21)。とくに健診・検診にかかわるのは、次のような提案である。全国疾病保険金庫に検診の組織的な展開と財源供給を、国立がん研究所にCRCDCのかじ取りを委ねながら、組織的な検診への参加率を改善すること(項目5)、医師の報酬に占めるROSPの割合を増やすとともに、予防の指標の比重を高めること(項目6)、一般医が患者に対して生涯にわたって提案し、促していくべき予防(検診、ワクチン接種、リスク要因の観察)の行為に関する推奨(recommandation)を確立すること(項目11)、である。フランスでは今後も、保険者と一般医(とくにかかりつけ医)が中心となって、疾病予防の取組みを改善するための努力が続けられていくであろう。最後に、本稿における検討をふまえて、フランスの健診・検診をめぐる制度の特徴を日本との比較をふまえて整理してみたい。まず一つ目は、フランスでは、健診や検診に相当するような予防的な行為が医療保険の給付の範囲に含まれており、かかりつけ医等の医師が被保険者(患者)との継続的な関わりのなか中間目標到達目標62%74%以上5名(患者)52%65%以上5名(患者)26%55%以上5名(患者)最低値ポイント404055健保連海外医療保障 No.13036Ⅴ. まとめ ―健診・検診について考えるための視座―

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