35健保連海外医療保障 No.130comptes 2021:47)。また同報告書には、医療保険の償還対象となる医療行為のリストである医療行為共通分類(classification commune des actes médicaux)のなかに明白に個別検診の行為に相当する多くのコードが含まれていることを全国疾病保険金庫が指摘しているとの説明がある42)。医療保険の給付のなかで行われる予防的な検診の要は、被保険者に対してそれらを促し、必要な処方を行う医師であり、とりわけ被保険者と継続的なかかわりをもつかかりつけ医である。医療保険に関する2004年8月13日法と2005年1月12日に締結された医療協約に基づいてかかりつけ医制度が導入された際に、当該医療協約においてかかりつけ医の任務が定められた。そのなかで、予防医療(検診、健康教育等)を提供し、健康増進に寄与することがかかりつけ医の任務として明記された43)。つまり、被保険者に対して検診を促し、実施することは、かかりつけ医に求められる役割の一つである。疾病予防を促進する役割をかかりつけ医が担うことは、診療報酬の面からも促されている。従来、かかりつけ医(多くは一般医)の診療報酬の大部分は出来高払いによって支払われていたが、2000年代半ばから、その役割を強化するための補足的な定額報酬が導入されていった44)。さらに、2000年代末には、設定された目標の達成度合いに応じて報酬額が定められる成果払い報酬が導入されたが、これによってかかりつけ医を通じた「検診」が直接的に促されていった。まず、2008年社会保障財政法によって、医療保険が個々のかかりつけ医と医療提供改善契約(contrat dʼamélioration des pratiques individuelles: CAPI)を締結して、定められた目標に基づいて報酬を支払うことが可能となった。CAPIによって医療保険が推進しようとする活動は、予防活動(がん検診を含む)、慢性疾患の管理、および処方の適正化であった。つづいて、成果払いの仕組みを拡大するため、2011年に締結された医療協約によって「公衆衛生の目標に応じた報酬支払い(rémunération sur objectifs de santé publique : ROSP)が導入された。CAPIが医療保険と個々のかかりつけ医との間での個別契約であったのに対して、POSPは医師組合と医療保険との団体間の医療協約に基づいて実施される報酬支払い制度である(松本 2017:60-1)。ROSPによる報酬支払いは目標の達成度合いに応じて行われるため、これを評価するための指標が設けられている。現在、かかりつけ医(成人/児童)と専門医(心臓病/消化器・肝臓病/内分泌・糖尿病・栄養)に対応した5種類の指標群が整備されている。このうち、かかりつけ医(成人)に対応したものとしては、「慢性疾患の管理(8指標)」、「予防(12指標)」および「処方の効率性(9指標)」が設けられている。それぞれの指標の達成度合いに応じてポイント(1ポイント=7ユーロ)が付与され、かかりつけ医が担当する患者数が加味された上で報酬として支払われる。予防を目的とした指標のうち、がん検診にかかわる指標は3つである(表1)。対象となるのは、乳がん、子宮頸がん、および大腸がんであり、それぞれ達成すべき目標と付与されるポイントが定められている。とくに、検診への参加率が低調である大腸がん検診にはより高いポイントが設定されており、被保険者(患者)に検診を促すかかりつけ医の役割がより大きく期待されていると考えられる。ところで、ROSPの指標で考慮される検診は個別検診に限定されてはいない。例えば、乳がん検診の場合には、目標の達成度合いを測る際の検診には、組織的な検診と個別検診の両方が含まれる。他の二つのがん検診に関しても、両者の区別はなされていない。このことは、かかりつけ医には、自身が起点となって対象者に検診を促し、受診につなげることのみではなく、組織的な検診の案内を受け取った対象者に対し1. かかりつけ医の役割2.成果払い報酬による検診の促し
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