健保連海外医療保障 No.13032諸外国における健診・検診についてCRCDCは、がん検診の実施をめぐって多様な機関・組織との連携や調整を行う地域圏レベルでの統一的な組織として2019年に創設された28)。CRCDCは地域圏における単一の組織(法人)であるが、地域拠点(site territorial)を設けている場合も多い。CRCDCの組織や運営方法、任務29)等は、CRCDCの設置運営要綱(cahier des charges)30)により詳細に定められている。全国レベルで統一的に定められたこの設置運営要綱に基づき、各地域圏の特殊性や必要に応じて具体的ながん検診の実施方法等が検討されている。がん検診には多様な組織・機関、関係主体が関与しており、CRCDCはこれらの調整や連携を担う。つまりCRCDCは、地域圏の保健医療政策の責任主体であるARS、財源供給者である医療保険組織、国立がん研究所、検診の対象者(年齢等の条件に合致する市民)および検査を担当する開業医等をつないで、がん検診がよりよく実施されるよう必要な調整や連携を行う(健診センターにおける健診のように、CRCDCでがん検診が行われるわけではない)。また、CRCDCは、財源調達方式や細かな実施方法を決定するため、ARSおよび医療保険組織と協約を締結する。CRCDCの活動は、アソシアシオンと呼ばれる民間の非営利組織をベースとして展開されている。フランスではアソシアシオンの活動が極めて活発であり、疾病予防の領域においても大きな役割を担っている。これに関しては、会計検査院の報告書においても、ARSは予防政策を地域において実施する上で、ローカルな、あるいは地域圏レベルのアソシアシオン組織に大きく依存していると説明されている(Cour des comptes 2021:71)。これらのアソシアシオンの活動は、医療保険の財源による補助の対象となっている31)。CRCDCは、各地域で検診にかかわっているアソシアシオンを地域圏レベルで一つに統合し、活動を合理化して地域的な偏りを是正・調整する役割を担っている32)。CRCDCの運営費用は、医療保険とARSからの交付金によって賄われるが、その他の財源によって補完される場合もある33)。雇用者数はフルタイム換算で782人に及んでいる(Cour des comptes 2021:72)。多様なアソシアシオン組織を活用したフランス独自の、その強みを活かしたがん検診の実施体制が構築されている。ところで、組織的ながん検診の実施における保険者の役割はCRCDCに財源を供給することにとどまらない。会計検査院の報告書では、がん検診における保険者の位置づけが次のように説明されている(Cour des comptes 2021:73)。まず、全国疾病保険金庫はすべての被保険者に情報を伝える能力をもっていることから、被保険者に検診に出向くよう訴えるための中心的で最も効果的な位置づけにある。また、医療にかかわる専門職と協約を締結する関係にあることから、これらの専門職をよりどころにすることができる。さらに、費用の償還を通じて個別検診の途も開くことができる。このように、保険者はがん検診の実施を財政面で支えているが、同時にそれを直接的に推進することができる重要な位置づけにある。フランスで実施されているがん検診は、集団を対象として定められた場所・日時に実施するといったような形をとっていない。がん検診に注目して先に見たような検診の二つのルートを確認すると、まず、乳がん、大腸がんおよび子宮頸がんに関しては、検診の対象者としての条件(年齢、性別等)を満たした市民にCRCDCから案内が届き、自ら選択した医師(かかりつけ医や専門医等)のもとで検診を受ける(「組織的ながん検診」)。これに対して、かかりつけ医や専門医が、担当する患者に対して予防を目的とした検診の処方を行い、これを通じて患者が検査を受ける「個別がん検診」もある(後ほど検討する)。いずれの場合でも、検査を実施するのは外来診療を担当する専門医等であり、その点において両者の違いはないとみられる。実際に行われているがん検診の全体を把握する3. がん検診の内容
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