健保連海外医療保障_No.130_2022年9月
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31健保連海外医療保障 No.130充されてきた。全国的に展開される組織的ながん検診プログラムとして、2004年には乳がん検診が、続いて2008年からは大腸がん検診が開始された。さらに2019年からは子宮頸がん検診が実施されている。今日、これらの三種類のがんについては、無料で受けられる検診が全国的に実施されており、対象となるがんの相当数の早期発見が可能となっている。第3次計画によれば、それまでの乳がん検診プログラムを通じて、毎年1.6万人のがんが見つかっている。また、大腸がんに関しては、2009-2010年の大腸がん検診プログラムの実施を通じて、4,500人の大腸がんが見つかり、1万人以上の前がん病変が治療につながるという成果があった23)。第3次計画が終了した2020年にはCovid-19による公衆衛生上の危機に見舞われたため、がん対策の推進がやや停滞したが、2021年2月には新たながん推進対策計画「がんとの闘いの10か年戦略(2021-2030年)」(以下、第4次計画)が発表された。対象期間を5年間としていた従来の計画とは異なり、第4次計画は10年というより長い期間を展望し、フランス市民の健康や日常生活にがんが及ぼす悪影響を大きく削減することを目指す野心的な計画となっている。またがん検診やその治療をめぐる研究成果や技術革新を盛り込んだものとなっている。第4次計画は、連帯保健大臣と高等教育・研究・イノベーション大臣が主導し、国立がん研究所(Institut national du cancer)24)の連携のもとで実施される。計画を実施するための予算も強化され、前半の5年間(2021-2025年)で17.4億ユーロが投じられる予定であるが、これはその前の5年間(2017-2021年)の予算を20%上回る規模である。がん対策の推進をフランス政府がいかに重要視しているかは、2021年のワールドキャンサーデー(2月4日)にあわせて国立がん研究所が開催したイベントにマクロン大統領がビデオで演説を行い、第4次計画を発表したことからも理解できる25)。演説のなかで大統領は、最優先すべきこととして、①長期的な取組みを通じて、がんを可能な限り少なくするためにあらゆる予防策を行うこと(とくに、回避可能ながんの主要因である喫煙と過度の飲酒への対策)、②より短期的な戦略として、すべての人がアクセス可能であり、可能な限り早い段階での検診を展開すること、③病気の間もその後もがん患者に寄り添うことを挙げた。このうち、二つ目の優先課題(検診の展開)については、がんを早期に発見すれば、回復の可能性が大きく後遺症のリスクも小さいことから、検診の重要性が強調された。そのうえで、次のような内容が語られた。過去20年間の取組みにより大きな進展があり、フランスでは毎年900万人が検診を受けている。しかし、これはまだ十分な数ではない。検診への意識を高め、ためらいを取り除き、医療関係者やアソシアシオンを動員し、検診へのアクセスを容易にする努力をさらに重ねなければならない。これから先、少なくとも追加で年間100万人が検診を受ける状況となることが望ましい。さらに人工知能やビッグデータなどの研究・技術革新を活用した近未来の検診を考案する必要がある。対象をより適切に絞り込み、技術の恩恵によってよりよく予防し、不要な行為を回避してよりよく検診が受けられる複数のイノベーションが開発されている。優先課題は、これから数年以内に、肺がんを対象とした効果的なキャンペーンを展開することであり、新しいフロンティアを開拓することである。組織的ながん検診の制度的な枠組みは、がん検診に関する2006年9月29日のアレテ26)により定められている。当該アレテによれば、組織的に実施される乳がん検診プログラム、大腸がん検診プログラムおよび子宮頸がん検診プログラムは、公衆衛生法典L1411-6条27)の意味するところの保健医療プログラム(programmes de santé)であり、これらの保健医療プログラムは、地域圏がん検診連携センター(centre régional de coordination des dépistages des cancers:CRCDC)によって実施される。2. 組織的ながん検診の実施体制

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