健保連海外医療保障_No.130_2022年9月
31/80

健保連海外医療保障 No.13028(3)健診をめぐる課題諸外国における健診・検診について金受給者とその被扶養者、⑤その他の非就業の被保険者とその被扶養者、⑥FNPEISのプログラムに定められた健康を脅かすリスクにさらされている人口というカテゴリーに属する人々とされた。これらに該当する人々が健診センターで検査を受けた場合には健診は無料で提供されるが、該当しない場合であっても、疾病保険金庫の責任料金(医療協約によって定められた償還のベースとなる料金)に基づく費用の償還が行われる。このように、健診センターで実施される健診は、他の疾病予防の制度やサービスが利用しにくい、あるいは施策の対象から漏れてしまう人々に対して、医療や疾病予防へのアクセスを確保する役割を担っているといえる。検査内容は、年齢、性別およびリスク要因に応じて定められる11)。検査項目は、例えば、採血、血圧、尿検査、聴力検査、心肺機能検査等である。健診はまた、健康に関する施策の情報提供や相談の機会でもある。健診の際、対象者には医療をめぐる権利、適切な受診ルート、補足的医療保険の確保のための支援方策についての説明がなされるとともに、健診センターの医療チーム(医師、歯科医師、看護師等)への相談の機会が提供される。検査結果はかかりつけ医に伝達されることとなっている12)。また、検査によって見つかった疾患をうまく治療につなげるために、健診センターは、必要な場合には患者を誘導し、かかりつけ医に有用なすべての医療情報を提供する等の対応を行うこととなっている13)。つまり、健診センターとかかりつけ医が連携し、対象者が適切に医療を受けられるようにすることが目指される。健診は任意であるため、より多くの対象者に健診を受けてもらうために初級疾病保険金庫が対象者に働きかけ、対象者が当該金庫にコンタクトをとって健診を受けるための手続きが行われるという流れになる。なお、健診の頻度(どのくらいの期間ごとに健診を受けるのか)については、従来は5年に一度、定期検査を受けることが推奨されていた14)。健診の対象者が申し込みを行うと、健診の日時や場所が決定される。対象者は、あらかじめ記入しておいた問診票を持参して健診センター(あるいは支部)に出向く。検査内容は、問診票の記載内容と対象者のリスク要因に応じて定められる。健診の最後の面談で対象者の健康状態が明らかにされ、必要な場合は追加的な検査が検討される。健診には2時間半ほどを要する15)。健診センターをめぐっては、会計検査院によって繰り返し問題の指摘がなされている。2009年の報告書のなかでは、全国疾病保険金庫のコントロールが十分に行われていないこと(それによる健診センターの無計画な増設や地域的な偏在等)、健診センターの利用者が優先対象に十分に絞られていないこと、検査費用が増加していることなどが課題として挙げられた(Cour des comptes 2009:243-62)。さらに2021年の報告書では、健診センターが期待される役割を十分に果たせていない状況が明らかにされている(Cour des comptes 2021:108-10)。図2は健診センターで実施された検査数の推移を示したものである。検査の総数は2018年で約46.5万件であるが、年々、減少傾向にある。また、主なターゲットとされる不安定な状況にある人々を対象とした検査は全検査数の58%にとどまる。健診センターにおける健診を受けているのは、不安定な状況にある人口のごく一部でしかないとの指摘もある16)。くわえて同報告書では、健診センターで働く人員(2018年で1,194名)の確保が困難になっていることや検査の平均費用が263ユーロまで上がっていること、財源の配分方法が各地域の実態を反映したものとなっていないこと等、健診センター運営の継続性や安定性の面においても課題があることが示されている。さまざまな課題があるものの、健診センターは予防へのアクセス確保における最後のセーフティーネットのような存在であり、その意義や役割は小さくないと考えられる。

元のページ  ../index.html#31

このブックを見る