27健保連海外医療保障 No.130(2)健診の実施診センター(centre dʼexamen de santé)を中心に、社会的弱者の予防へのアクセスを確保する独自の健診システムが構築されている。これについて、以下で具体的に検討していくこととしたい。医療保険(一般制度、農業制度など)に加入している場合は、医療保険のもとで運営される健診センターにおいて、健康診査(examen de prévention en santé 以下、健診)を無料で受けることができる。この健診については、医療保険(一般制度)の一般措置を定める社会保障法典L321-3条において、「(初級疾病保険)金庫は被保険者とその家族に、生涯の一定時期に無料の健診を受けさせなければならない」と規定されている4)。無料の健診提供に関する保険者の義務は、第二次世界大戦直後の社会保障制度の創設時に導入されたものである5)。これを受けて、保険者がこの義務を果し、被保険者と被扶養者が定期的に無料の健診を受けることができるよう、各地に健診センターが創設されていったという歴史的経緯がある。健診センターには、初級疾病保険金庫が直接運営するものと、アソシアシオン(association)6)等が社会保障組織と協約を締結して運営するものがあるが、前者が大半を占めている(Cour des comptes 2009:246)。1970年には20か所程度であった健診センターは、その後少しずつ数を増やし、2000年代以降は80か所を超える規模となり、現在では85の健診センターが存在する7)。なお、一つの健診センターが複数の支部から構成されている場合もある。また、その設置場所や設置数に関しては、地域的な偏りが大きいことが指摘されている(Cour des comptes 2009:247)。健診センターで勤務する人員数は、2018年で1,194名であるが(Cour des comptes 2021: 109)、この20年間で大きく減少している8)。人員の大部分は医師、看護師、事務スタッフであるが、その他、歯科医師、検査関係の職種も勤務している場合がある。人員数でみると、健診センターはそれほど規模が大きくないものが多い。少し古いデータであるが、2004年の費用分析(一つあるいは複数の実施場所をもつ62の健診センターが対象)によると、人員が20名未満(フルタイム換算)のセンターが56.4%、50名未満(同)のセンターが90.3%であった(Cour des comptes 2009:250)。健診センターの役割は、時代によって変化している。戦後は結核等の感染症への対応が優先的な課題であったが、現在では、不安定な状況にある人々や社会的弱者に疾病予防を提供することが健診センターの重要な任務となっている。このような変化は、定期健診に関する1992年7月20日のアレテ9)によってもたらされたものである。当該アレテによって、健診センターによる健診の優先的な対象者は、後述のように、他の予防関連施策の対象になりにくい人々と定められた。健診センターを運営するための費用は、「全国疾病予防・教育・情報基金(Fonds national de prévention dʼéducation et dʼinformation sanitaire : FNPEIS)」を通じて賄われている。FNPEISは1988年に全国疾病保険金庫のなかに設けられた基金であり、保健医療に関する予防、教育および情報提供の活動への財源供給を目的とする。当該基金の支出において健診センターの運営費用が約4割を占めており10)、85か所の健診センターの年間予算は2019年で1億4,800万ユーロである(Cour des comptes 2021: 108)。健診の対象はすべての被保険者とその被扶養者であるが、健康維持や疾病予防のための政策的な取組みが届きにくい人々が優先的な対象者である。1992年7月20日のアレテの2条において、医療保険組織が優先的に健診を提供しなければならないのは、①16歳以上の非就業の被扶養者、②求職者とその被扶養者、③個人保険の加入者とその被扶養者、④退職・早期退職の年1. 健診センターにおける健診(1)健診センターとは
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