健保連海外医療保障 No.13026諸外国における健診・検診について庫と農業制度の保険者によって構成される全国疾病保険金庫連合は、医療職等との協約の締結や患者の自己負担割合の決定等の権限を有しており、医療保障政策において大きな影響力をもつ。とくに全国疾病保険金庫連合が医師組合と締結する医療協約(診療報酬等を定める)は、望ましい医療提供のあり方を実現するための手段として重要である。医療提供体制に関しては、原則として、外来診療は開業医によって、入院診療は病院によって担われている。健診や検診とのかかわりがより深い外来診療に焦点を当てると、とくに重要であるのは、2005年に導入されたかかりつけ医制度である。従来は、患者が開業医を自由に選択できるフリーアクセスの仕組みであったが、かかりつけ医制度の導入により、このルールは大きく変更された。今日、フランスに住む人々の9割以上はかかりつけ医を選び(一般医、専門医のいずれも選択可能)、届出を行っている。外来診療を受ける場合には、原則、まずかかりつけ医の診察を受け、必要がある場合はかかりつけ医の紹介を通じて他の医師の診療を受ける(ただし、産科、婦人科、眼科、精神科等の特定の専門医には直接アクセスすることが可能である)。かかりつけ医を経て医療を受ける場合には医療保険からの償還率は70%であるのに対して、かかりつけ医の届出を行っていない場合やかかりつけ医を経由しないで他の医師の診療を受けた場合には、償還率が30%に引き下げられる。外来診療を担う医師への診療報酬の支払いは、その大部分が出来高払い方式により行われている。また、これらの医師に対しては、歴史的に償還払い制がとられてきた。これは、患者が医師に対して医療費の全額を支払い、その後、医療保険から費用の一部が償還される仕組みである1)。このため、保険者からの医療給付は償還(remboursement)と表現されることが多い。医療行政に関しては、各地域圏(région)2)に設けられている地域圏保健庁(agence régionale de santé:ARS)が重要な役割を担っている。ARSは地域圏における保健医療政策を掌っており、地域圏における予防政策の推進主体としてがん検診の実施にも関与している。このような特徴をもつ医療保障制度と医療行政のもとで、健診や検診が実施されている。以下では、まず、日本の「健診」に相当するフランスの取組みについて検討し、続いて「検診」に相当する取組みについて見ていく。最後に、医療保険のなかで実施されている健診・検診(とくにかかりつけ医が関わるもの)とその推進方策について検討していきたい。フランスには、広く一般の人々を対象として実施される普遍的な健診の仕組みはない。労働者や妊産婦、児童に対しては定期的な健診が義務づけられているが、それらを除くと、一般の人々の健康状態を定期的に確認し、把握する制度は存在しないといえる。2009年の公衆衛生高等会議(Haut Conseil de la santé publique)の報告書では、その利益を示す十分な証拠が確認できないとして、予防を目的とした定期的な健診に対して消極的な評価がなされた。望ましい方向性として示されたのは、従来からの医師とのコンタクト(通常の診察など)の機会を活用する方向である(Haut conseil de la santé publique 2009:13-7)。つまり、対象者に対して一律に定期的に健診を実施するのではなく、かかりつけ医等が被保険者(患者)との継続的な関わりのなかで、健康状態の確認や予防的な検査の処方を行うという方法である。これは、疾病予防におけるかかりつけ医の役割を重視した政策選択であり、基本的には、現在もその方向が目指されているといえる3)。しかしながら、このような考え方に基づく健診・検診は、就労状況や住まいが不安定であるといったようなさまざまな理由から医療へのアクセスが妨げられている者に対して、十分な予防医療が届かないという問題が生じる。これに対応するために、医療保険のもとで運営されている健Ⅱ. 健診
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