健保連海外医療保障_No.130_2022年9月
20/80

注1) Das Fünfte Buch Sozialgesetzbuch ‒ Gesetzliche Krankenversicherung ‒ vom 20. Dezember 1988 (BGBl. I S. 2477, 2482).17健保連海外医療保障 No.130健診・検診のための費用が含まれる「疾病の早期発見」に関する支出は、他の「健康増進」などの費目の支出よりも少ない。このように、ドイツでは、病気になる前の段階での予防措置が健診・検診と同様、あるいはそれ以上に重視されているといえる。このことは、2015年に制定された病気予防法により、健診において、1次予防の観点から、健康上のリスクや負担の把握および評価等も行われるようになったことにも表われている。他方で、病気予防は本来、主として医療の外の領域(家庭・学校・職場等)で行われるものであるが、病気予防のために一定の支出が義務付けられているのは、公的医療保険および社会的介護保険だけであるという批判的な見方もある87)。病気予防への取組みを社会全体に広げていかなければならないという課題は、社会全体で共有されつつある。ドイツでは職場における集団での健康診断が行われていないが、職場での労働安全衛生の制度が別途存在する。労働安全衛生について定める労働安全法88)は、被用者からの希望があった場合に、当該仕事における健康リスクに応じて、産業医による検査(arbeitsmedizinische Untersuchung)を定期的に受けさせることを事業主に義務付けている(第11条)。ただし、労働条件や、事業主が労働者の健康保護のために講じている措置から判断して、労働による健康被害が予期されない場合には、この限りでない(同条)。特定の危険な作業従事者(高気圧下での作業従事者や放射線業務従事者など)については、産業医による検査を受けさせることが事業主に義務付けられている(第18条第2項第4号)89)。このように、産業医による労働安全衛生面からの義務的な検査は、原則として業務上の健康リスクがある場合に限られている。労働安全衛生の費用は、事業主が全額負担する(第3条第3項)。他方で、2015年の病気予防法では、被用者である被保険者が健診を受診しやすくするために、疾病金庫またはその団体は産業医またはその団体と健診の実施に関する契約を結ぶことができるとされた(公的医療保険法第132f条)。これにより、産業医は、被用者への予防接種や健診の費用を疾病金庫に請求できるようになった。疾病金庫は、従前、事業者における健康増進措置の助成も行っており(同法第20b条)、疾病金庫と労働安全衛生との協力は深まりつつある90)。ドイツにおいても、健診・検診はエビデンスに基づいて行われることが重要とされているが、特に健診は、定期的な受診により病気が予防され、寿命が延びるといった確たるエビデンスがないまま行われている。ドイツ一般医・家庭医協会およびドイツ内科医協会は、エビデンスのみではなく、「メリットが感じられること」が重要と指摘し、健診での対話により医師・患者関係が強化されること、他の検診の受診の動機付けを行うことができることなどの副次的なことも重要だとしている91)。他方で、「組織的ながん早期発見プログラム」として行われるがん検診については、連邦共同委員会の指針において、評価の結果をフィードバックしながら制度設計を見直すこととされている。また、がん検診の検査方法は、その効果や、メリット・デメリットを見極めながら慎重に検討されている。今後、健診・検診の評価が進むことにより、その在り方にも変化があると考えられる。2) 中村亮一「ドイツの医療保険制度」2016.3.15. ニッセイ基礎研究所ウェブサイト 〈https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id■4. 労働安全衛生との関係おわりに

元のページ  ../index.html#20

このブックを見る