健保連海外医療保障_No.130_2022年9月
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健保連海外医療保障 No.13016諸外国における健診・検診について行っていた82)。2019年の検査データに基づく評価報告書83)は、2021年12月に公表された。評価報告書の要旨の概要は、次のとおりである。2019年4月19日から男性が内視鏡検査を受けることのできる年齢の下限が55歳から50歳に引き下げられたこと、および2019年7月1日から大腸がんの早期検診についての通知が行われるようになったことから、2019年に内視鏡検査を受けた人数は2018年と比べて14.3%増加し、51万人弱であった。受診者のうち約8万3,000人の男性(32.4%)および約5万6,000人の女性(22.3%)に腺腫(Adenom. 大腸ポリープ)が発見され、このうち約2万1,500人の男性(8.4%)および約1万3,500人の女性(5.4%)で発見されたのは進行腺腫であった。さらに、2,010人の男性(0.8%)および約1,300人の女性(0.5%)に大腸がんが見つかった。大腸がんの発見率は、55〜59歳の受診者では0.3%、80歳以上の受診者では2.1%と年齢が上がるほど高くなる。大腸がんの内視鏡検査の導入(2002年)前は55歳以上の年齢層において大腸がんの罹患率は上昇していたが、導入後の10年間で17〜26%下がった。2000年から2016年までに罹患率は22.4〜25.5%下がり、10万人当たりの罹患者は32〜51人となった。また、2000年から2018年までの大腸がんによる死亡率は35.8〜40.5%下がり、10万人当たりの死亡者は11〜19人となった。評価報告書は、このような傾向を踏まえ、内視鏡検査は効果があるとし、「組織的ながん早期発見プログラム」の枠組みで実施されるようになったことを契機として、受診者が増えることが望ましいとしている。ドイツの健診・検診制度は、公的医療保険法において一本化してその枠組みが定められている。また、健診・検診の詳細な内容は、疾病金庫間で格差が出ないように、連邦共同委員会の指針において統一的に定められている。一般的な医療制度の枠内で健診・検診が行われるため、被保険者は個別に家庭医または専門医等で受診する。健診・検診は、医療保険給付であり、被保険者の負担がないという点は、受診のハードルを下げていると考えられる。ドイツでは、健診・検診を受診するかどうかの決定は、被保険者それぞれに委ねられており、事前の客観的な情報提供を充実させ、被保険者が自らにとってのメリット・デメリットを熟慮して検討することができるようになっている。検査後に不要な精神的不安・負担を与えてしまうことも、検査を受けるデメリットとして考えられている。定期的にがん検診の通知を行う「組織化されたがん早期発見プログラム」では、以降の通知を希望しない権利も認められている(公的医療保険法第25a条第4項)。ただし、健診・検診を受診しないのは、自らの健康に対する無関心に起因する可能性もある84)。いずれにしても、適切な情報提供が重要である。ドイツにおいては、健診・検診と並び、1次予防としての病気予防の措置も重視されている。このことは、医療保険の支出面からも見て取ることができる。2018年の経常保健医療支出(公的財政、公的医療保険、社会的介護保険、公的年金保険、公的労災保険、民間医療保険、事業主、個人による合計)は、3,836億3,600万ユーロであった85)。このうち、病気予防・健康保護のための支出は、約130億ユーロである(全体の約3.4%)。この130億ユーロの内訳は、一般的な健康保護86)が46億3,800万ユーロ(約35.7%)、健康増進が46億3,400万ユーロ(約35.6%)、疾病の早期発見が24億1,800万ユーロ(約18.6%)、鑑定・調整が13億1,200万(約10.0%)ユーロとなっている。2. 受診に関する自己決定の尊重3. 予防措置が重要であることの認識Ⅵ. ドイツの制度の特徴―日本との比較から―1. 健診・検診の統一的な枠組み

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