9健保連海外医療保障 No.130(2)がん検診の概要1)乳がん検診(30歳以上の女性)30歳以上の女性の被保険者は、毎年、乳がん検診として、問診・視診・触診・セルフチェックの指導を受けることができる。50〜69歳の女性は、これに加えて2年に1回、マンモグラフィ・スクリーニングを受けることができる。マンモグラフィ・スクリーニングがこの年齢層を対象とするのは、50歳未満の女性ではX線画像が不鮮明となることが多いこと、70歳以上の女性では乳がんによる死亡率が低減し、検査のメリッ無害なものもあり、受診した1,000人の男性のうち20人に所見が認められるが、その半数は無害なものであることが挙げられており、検査結果により不必要な不安を抱くこともあり得るとされる。腹部超音波検査では、腎動脈下の腹部大動脈に直交する断面で、LELE法(leading edge to leading edge. 上縁から上縁までを計測する方法)を用いて、動脈瘤の最大径が計測される。最大径が2.5cm以上の大動脈瘤があれば、所見ありと診断される41)。連邦共同委員会は、外部の学術機関に対し、2023年9月までに腹部大動脈瘤のスクリーニングに関する報告書を作成することを委託している。報告書では、入院患者診断統計および死因統計に基づいて、予定手術および緊急手術の件数ならびに腹部大動脈瘤と関連した死亡件数の推移が考察される。②B型肝炎・C型肝炎2021年10月1日以降、35歳以上の被保険者は、健診において、B型肝炎およびC型肝炎のスクリーニング検査を1回ずつ無料で受けることができるようになった。B型肝炎は血液や体液を介して感染する肝機能障害であり、C型肝炎は血液を介して感染する。B型肝炎のおよそ95%、C型肝炎の15〜40%は自己免疫力により自然治癒するが、両者とも感染力が強く、慢性化して重症化すると肝硬変や肝臓がんに至ることもある42)。B型肝炎については、1995年から乳児・幼児期の標準接種として予防接種が推奨されているため、スクリーニング検査の前に予防接種記録の確認がなされる。C型肝炎のワクチンは、現在のところない43)。B型肝炎のスクリーニング検査では、採血によりHBs抗原価を調べ、陽性の場合には、同じ血液を使ってHBV DNA検査を行う。C型肝炎のスクリーニング検査では、採血によりHCV抗体価を調べ、陽性の場合には、同じ血液を使ってHCV RNA検査を行う44)。疾病金庫が費用を負担するのは、乳がん、子宮頸がん、大腸がん、前立腺がんおよび皮膚がんの早期発見検査である45)。参考に、ドイツで2018年にがんと診断されたのは約49万8,000人(男性が約26万5,200人、女性が約23万2,700人)であった。このうちがんの内訳は、男性で多いのは前立腺がん24.6%、肺がん13.3%、大腸がん12.8%であり、女性では乳がん30.0%、大腸がん11.5%、肺がん9.4%である。他方、2019年にがんで死亡したのは23万242人であった。死因として最も多いのは、男性では肺がん、女性では乳がんである46)。なお、ドイツでは、肺がんの早期発見検診は制度化されていない47)。これは、喫煙しない国民にとっては、検査によるメリットよりデメリットの方が大きいためとされている。肺がんのリスクが高い人々のために行い得る早期発見検査であるレントゲン撮影、喀痰検査、気管支鏡検査および腫瘍マーカー検査は、信頼性等の点から専門家によって推奨されておらず、現在、低線量CT検診の導入が検討されている。専門家の団体は、低線量CT検診を導入するとしても、全ての人を対象とすることは推奨していない。また、胃がん検診も行われていないが、その理由は、胃がんは、浸潤がんになる前の早期の段階で発見されれば、比較的予後が良好ながんであるためとされる48)。ただし、初期症状を放置して医療機関を受診しなければ、発見された段階で進行していることも同時に指摘される。
元のページ ../index.html#12